電子書籍:読者がDRMを嫌う6つの理由

TeleReadという電子書籍関連のニュースサイトで、面白い記事を見つけた。「なぜ読者はDRMを嫌うのか:ショートバージョン」と題されたこの記事では、既刊本を電子書籍で自己出版したいという作家の「なぜ読者がDRMを嫌っているのか」という疑問に6つの理由を挙げて説明している。

これがなかなかうまくまとまっているので、私のコメントを交えつつ、見ていきたいと思う。

なぜ読者は電子書籍DRMを嫌うのか

1)譲渡や貸し借り、中古販売できない

  • 紙の書籍であれば、友人間で貸し借りしたり、読み終わった後に売りに出すこともできた。好きな場所で、好きなだけ読むこともできた。

確かに、友達にちょっとこれ読んでみてよ、と気軽に貸してあげたりはできなくなるだろうなぁ。惚れ込んだものならオススメしたくなるのは人情ではあるが、それができないとなるとちと辛い。

読み終わった本を売れないというのは、購入したコンテンツの財産価値がゼロになるということ*1。デジタルコンテンツの場合、あげるつもりでもコピー元が手元に残ってしまうので、紙の書籍同様に譲渡権は消尽すべし、というのも現段階では難しいのかもしれないが*2が、感情的にはもやもやするわけだ。特に、紙の書籍と同じか同程度の価格の場合には。また、中古市場がなくなった場合の、長期的な問題については、以前「デジタル配信への移行で我々が失うもの」というエントリで書いたのでよろしければ。ただ、これらに関しては、DRMが引き起こしている問題とも言い難いのだが。

あと、好きな場所で楽しめるかどうかなんだけど、これは電子書籍であればこそ、多様なシーンで本を楽しめるという側面もあるので痛し痒しかなと。好きなだけ読めるかというのは後の理由に絡んでくる問題かな。

2)デバイスの台数制限:たった5台だけ?

  • PC、iPod TouchKindleiPadKoboを使い分けているが、これだけで既にAdobe DRMの台数制限に達してしまっている。新機種を購入したり、別のデバイスを購入しても、もう使えない。

持ちすぎ、と思われるかもしれないが、さまざまなデジタルデバイスが身の回りに増えてきているのも事実*3。今後もますます増えることが考えられるし、それらが連携することを考えると、現在のDRMの在り様では使い回しにくくなるかもしれない。まぁ、そうなったらそうなったで時代に合わせてDRMも変わっていくのだろうけれども。

現時点での問題として個人的に思うのは、PCを再インストールしたり、デバイスを初期化した場合に、新規デバイスとして登録されたりするのは面倒だなぁと。最新機種に買い換えた場合もそうだろう。認証デバイスのリセットも可能ではあるのだろうが、手順について毎回ググるカスなので、やっぱり面倒なんだなぁ。

3)相互運用性の欠如:デバイス買い換え時に書籍も買い直し?

これは特に囲い込みを行っているメーカー、プラットフォームが起こす問題だよね。一番なじみ深いのは、iTunes Storeで購入したDRM付の音楽ファイルはiPod/iTunes以外のデバイス/ソフトウェアでは再生できない、というような制限。特定のデバイスと特定のルートで購入されたコンテンツとを強固に結びつけることで、消費者の選択肢を狭めていると。別のデバイスに乗り換えたければ、それまで購入したコンテンツは諦めろ、という具合に。

DRM間の相互運用性が確保されるか、DRMフリーのコンテンツでもない限りは、安心して購入しがたいなぁと思う。筆者も書いているけど、不定期のレンタルならそれなりの価格じゃないと手が伸びにくい。

4)DRM認証キー問題

  • DRM認証キー発行サーバがダウンした場合、購入した書籍が読めなくなる場合がある。

これに近い問題が、音楽配信サービスを終了したMicrosoftMSN Music)やYahoo(Yahoo Music)で実際に起こっている。両サービスの終了に伴い、DRM認証キーが発行されなくなると、DRMで保護されたコンテンツは他のデバイスに転送できなくなる。MSは3年間DRMキーの発行を続けると発表し、Yahooは返金を申し出ることで事態の収束した。

こうしたDRMを使い続ける限り、電子書籍においても同様の問題が生じうる。サーバのダウン時には復旧まで待てばよいが、サービスの停止時にはどうしようもない。DRMフリーのファイルを提供するのか、返金に応じるのか、キーの発行を継続するのか、諦めろと言い放つのか、どういう対応をしてくれるのかは、業者次第である。もちろん、規約上はサービス終了時に購入したコンテンツが使用できなくなるかもしれないが、責任は負わないよということになっているのだろうが。

5)特定環境への依存:バグだらけのソフトウェアをインスコしろと?

  • DRMに対応した特定のソフトウェアをインストールし、使わなければならないこともある。そのソフトウェアもバグだらけだったり、使いづらかったり。また、OSによって使えなかったりもする

DRMedなファイルを使用、転送するためのソフトウェアを使用しなければならない、というのはやはり面倒。ましてや、過去にはSonyBMGのルートキットのようなどうしようもないレベルの問題もあったわけで、気分の良いものではない。

ただ、これは煩わしさに繋がるものとしての側面が大きいと思う。この手の使いにくさになれているアーリーアダプター層には面倒くささを、マジョリティ層には面倒くささに加えて訳のわからなさをもたらすんじゃないかと。

6)DRMそのものにかかるコスト:負担するのは正規ユーザ

  • DRMの開発や実装のコストは電子書籍の価格に上乗せされエンドユーザが支払うことになる。しかし、本来の目的の海賊版対策にはほとんど効果はなく、海賊版ユーザの方が快適に使用している。

ここでいう海賊版ユーザとは、タダでダウンロードする人たちと、購入した電子書籍DRMを解除して好きなように楽しむ人たちとを指している。私個人としては、後者に対しては割とアリだと思っている。

多くのDRMは回避可能であるし、P2Pやウェブでの違法流通においてはDRMが解除されたかたちで流通している。DRMの抑止効果は全くないとは思わないが、ローカルレベルでのカジュアルなコピーを抑止する程度に留まっている。

そんな中で、正規ユーザはDRMにかかるコストを負担させられ、さらにDRMによる煩わしさ、わかりにくさを押しつけられている、と。

終わりに

電子書籍DRM問題については、DRMと戦う漢Cory Doctorowが以前から熱く議論しているが、その甲斐あってかAmazonKobo、Barnes & NobleからDRMフリーでの電子書籍の販売を実現している。

Doctorow's First Law

DRM著作権の保護を目的としているだけではなく、コンテンツをデバイス/プラットフォームを守るための盾とするために利用されてもいる。

DRM があると、キンドル・ストアの本はキンドルでなければ読むことが出来ない。つまりキンドル・ストアからしか作品を出していない作家を読もうとしたら、読者はキンドルを持っていなければならない、ということになります。これでは紙の本よりも不自由です。読者がどんな読書用端末を持っていようとも、それとは関係なくあらゆるアウトレットから出版された本が読めるようでなければおかしい。

DRMと闘うCory Doctorow - 電子書籍、ヴォーカロイド、そしてコンピュータ将棋

DRMがもたらす制限が消費者にとって、著者にとってどのような意味を持つのか。誰を利する制限なのか。それをよく考えなければならないと思う。

*1:そもそもコンテンツを売ったのではなく、コンテンツを読む権利を与えたのだ、と言われそうだが。

*2:法的な解釈において。譲渡を可能にするDRM自体は可能だと思う。できないなら何がデジタル・ライツ・マネジメントだよ、と。

*3:今現在この問題を抱えている人はそこまで多くはないだろうとは思うけれども。

*4:もっと制限的なデバイスだと、たとえ同一機種であっても購入したデバイス以外での使用が認められない