マジコン対策「法」議論が進んでることはご存じですか?

前回のエントリは、デジマガのくだらん記事とその反応を見て*1、やばいなーと思ったので急いで書いてみたんだけど*2、もう少し補足というか、今起こっていることについて書いておこうと思う。

デジマガの記事への反応を一通り見てみたけれども、いかに著作権モラルが欠如しているか、マジコンがいかに悪影響を及ぼしているか、という意見が散見された。

確かに、YouTubeが当たり前のようにあって、その中に無断転載のビデオが含まれていてもほとんど問題視されることはないし、2ちゃんねるのニュース系スレやそのまとめブログでニュースサイトの記事や画像がまるまる無断転載されていても、それが指摘されることはほとんどないし、むしろニュースソースであるかのように扱われていたりもする。Tumblrを見ても無断転載のものが数多く流れていて、たくさんのユーザがそれを知りつつリブログしている。著作権モラルというものはなかなかに醸成されない*3。そんな時代。まぁ、モラル崩壊という人もいるが、著作権知財権モラルというものが一般市民にあった時代などほとんど無いわけで、これからみんなで育てて行かなければならないんだろう。

一方、マジコンの長期的なスパンでの悪影響については、

マジコンの被害は数兆円では済まない - 枯れた知識の水平思考

にて書かれているが、こうしたマジコンがどれほど酷いか*4という記事には注目が集まりやすいものの、現在進行中のマジコン対策法議論にはさほど注目が集まっていないように思う。

現在進行中のマジコン対策議論

現在、マジコン対策についての議論は、内閣知的財産戦略本部の「インターネット上の著作権侵害コンテンツ対策に関するワーキンググループ」にて進められており、このWGの報告書がそのまま立法に反映されることになるだろう。

で、そこで話し合われている具体的なマジコン対策は、「マジコン」そのものをターゲットにしているというわけじゃなくて、マジコンの仕組みを支えている「アクセスコントロールの回避」を禁止しましょう、というもの。回避行為そのものには罰則等はつかないのかもしれないが、そのための機器、ソフトウェアの製造、提供は禁じられることになれば、実質的に不可能、ということになるだろう。

アクセスコントロールとはなんぞやと思われるかもしれないので簡単に説明しておくと、特定のソフトウェア(ハードウェア、デバイス、プラットフォームなどを含む)と対応するコンテンツの紐付けのようなもので、機器(等)認証によって不正利用を防止する、というもの。マジコンの場合は、コピーされたデータでも、このアクセスコントロールによる認証を回避することでプレイできるようになる。

アクセスコントロールで一番有名なのはDVDに使用されているCSSなんだけれども、アクセスコントロール回避が規制されれば、DVDからデータを抜き出し、再生することができなくなる。ホームサーバーに置いて宅内ネットワーク経由で視聴するとか、ポータブルデバイス上で視聴するとか、私的利用の範囲であっても、アクセスコントロールを回避すること自体がダメ、と。当然、DVDリージョンコードの解除、「スキップできない」DVD広告のスキップなどもできない。

これはマジコン、DVDに限らず、アクセスコントロールが施されたありとあらゆるものに関連する。もっといえば、DRMが強化されることになる、と。特定のソフトウェア(ハードウェア、デバイス、プラットフォームなどを含む)と対応するコンテンツ*5との結びつきが強化され、所有のコンテンツの利用可能性はその特定のソフトウェアに依存することになるし、特定のハードウェア、デバイス、プラットフォーム上で利用できるコンテンツは、その提供者によって規定されてしまい、ユーザの選択肢は狭められる。また、正規に入手したコンテンツであっても、サポートが無くなれば利用できなくなる。これまでもハードウェアのサポート終了により対応ハードウェアが存在しない、希少化したために利用できなくなるということもあったが、デジタルデータの場合には、物理的というよりも、技術的、権利絡みの問題として顕在化することになる。

Apple任天堂が顕著だけれども、自社のデバイスは自分たちが定めた以外の使い方をしてはならない、というスタンスは果たしてフェアであるのか、という問題とも関わってくる。技術的に不可能であるならば仕方ないですむのだが、それが可能になったとき、あえて障壁を設けることは許されるのか。我々が正規に購入したデバイスであっても、自由に使うことは許されないのか。囲い込み戦略をとるのがドミナントの場合には特に顕著な問題となる。

マジコン規制というと聞こえはよいが、アクセスコントロール回避規制という形でそれが実現されようとしている。既にコピーコントロール回避規制は導入されており、コピー、アクセスの双方を制限できるようになる。つまり、「特定のハードウェア、デバイス、プラットフォームでコンテンツを利用するだけの許可を購入する」、そんな未来への一歩と言えるだろう。

競争によって囲い込みが過ぎるものは淘汰されるという意見もあるが、AppleDRM囲い込み戦略が失敗しなかったことを考えると、それほど楽観視できるものではない。Apple製品だけ取ってみても、iPodiPod TouchiPhoneiPadとますます複合的なデバイスに進化を遂げており、注目、人気共に衰えを知らない。もちろん、Appleだけではなく、未来のドミナント全てに言えることだが、そんなプラットフォームでのコントロール権を全て握られてしまうことが、ユーザにとってフェアであるのかどうか、ということはきちんと議論されなければならない。相互運用性や開放性についてもきちんと担保されることが、我々にとって重要なことであると私は思う。

善し悪しを越えて

物事には何でも善し悪しがあって、善しといえる部分ならば問題はないのだが、悪しとされた部分については、それを見過ごせんという人たちから何らかの対処が求められる。実際、マジコンに関わる問題でも既にそうなっている。私としては、マジコン問題といわれるものは、ゲームのROMデータの違法流通問題であると考えている。その解決はゲーム産業だけではなく、コンテンツに関わる全ての産業に望まれているものである。しかしマジコン問題の現状は、その違法流通を改善する方向でのアプローチではなく、ユーザの端末でのアクセスコントロール回避規制という形で問題の解決が図られようとしている。おそらく、他の産業もこのアプローチを採用することになるだろう。

しかし、そうなったとして、それがユーザにとってフェアといえる状況なのかどうか、ということが私にとって一番重要なこと。音楽産業、映画産業、ゲーム産業、マスメディアなどが現在抱えている問題に対して、とても同情的に見ている部分もあるが、しかし彼らの問題を解決するために、我々の行動が大きく制約されてしまうのだとしたら、やはり私は反発する。彼らが自身の利益を優先するように、私もユーザとしての私の利益を優先したい。

だからこそ、善し悪しを越えて、その落としどころについて考えるし、それが導き出されるまでの過程を注視しなければならないと思っている。少なくともね、マジコン問題は既に落としどころを考えないといけないところにまで話が進んでいると思うよ。その有り様が正しいとか正しくないという議論を越えて、実際問題どう対処すべきかというところにまできているんだから。

*1:一応、内容も読んだ。久々だよ、デジマガ読んだの。内容も酷かった。

*2:以前からもともと書いておこうと思ってたトピックではあったんだけどね

*3:私もこれらの行為には気をつけているが、ゲーム実況だけは見てしまう。ダメだなぁ…。

*4:もしくはマジコン厨がどれほどアホか

*5:フォーマット