スリーストライク法はまだどの国でも施行されていないよ!でも…
この記事によると、アメリカやイギリス、フランスなどでは「graduated response」と呼ばれるファイル交換対策プログラムが実施されているそうです。
まるで恐れを知らない戦士、37%のP2Pユーザーが警告を無視してファイル交換を続けると回答 - GIGAZINE
現時点で、"three strikes""graduated response"(複数回の著作権侵害警告の後にISPがインターネット接続を遮断することを強制する)を認める法律が施行されているところってないと思うんだけど。今日のP2Pnetの記事にもあるように
It (New Zealand)’ll become the, “first country in the world to implement a graduated response [three strikes and you’re out] system,” boasts the IFPI (International Federation of Phonographic Industry) .
p2pnet news ? Blog Archive ? New Zealand: official corporate copyright cop
ニュージーランドで施行されることになれば、世界初のスリーストライク法の施行になる、ってくらいだしね。ニュージーランドにおけるスリーストライク法の施行は2月末。
- ニュージーランド:ISPに加入者の著作権侵害の責任を負わせる改正著作権法が成立 :P2Pとかその辺のお話
- ニュージーランド:海賊ユーザに対するスリーストライク法成立が引き起こす混乱 :P2Pとかその辺のお話
- ニュージーランド:「ワンストライクアウト」改正著作権法に反対するキャンペーン :P2Pとかその辺のお話
ただ、それ以外の国で同様の法律が成立した、ということは聞いたことがない。
Gigazineの元記事Ars Technicaだと
The success of "graduated response" programs in the US, UK, France, New Zealand, and elsewhere around the world may depend, in large part, on just how quickly file-sharers will buckle. If most will quit after a simple warning, the campaign to enlist ISPs (and back down on the mass legal threats) may be a huge success.
37% of P2P users say they'll ignore disconnection threats
とあり、ここにアメリカ、イギリス、フランス、ニュージーランドがあげられているから、既に実施されていると考えたのかなと。
アメリカ
なんでArsがアメリカをあげているかって言うと、先日、RIAAがファイル共有ユーザ個人に対する訴訟戦略を見直しを受けてのものだと思われる。RIAAは個人を対象とした新たな訴訟を行わない方針を示す一方で、今後の違法ファイル共有対策のフォーカスをISPに向け、スリーストライクアプローチ等をISPに強制させようとしている。
イギリス
以前、イギリスでも3ストライクポリシーの導入が取り沙汰されたけれど、これは、ISPが著作権侵害に関してコンテンツ産業との自発的な協力関係を築けなければ、立法によってそれを改善せざるを得ない、という圧力を受けて起こった議論。
英国ISP協会としては、ISPはパイプ役であり、ネット上における著作権侵害対策に積極的に関与すべき立場にはない、と反発していたのだけれど、結局、大手ISP各社が著作権者からの著作権侵害クレームを受け付け、それを当該ユーザに転送するというキャンペーンを行うというところで、落としどころを見つけたようだ。これは、ユーザに対する警告状を転送するけれどそれ以上の対処(アクセス制限、遮断等)は行わない*1という点で、スリーストライクスキームとは異なる。現時点では、英国におけるスリーストライクプランは「議論には上がっていない」のだそうだ。
フランス
フランスは以前より、サルコジ大統領主導で強力にスリーストライクポリシーの導入を推し進めてきた。昨年11月にはスリーストライク法("graduated response")がほぼ満場一致で上院を通過している。
現在は下院にて審議中であり、2009年にも成立するものと見られている。。
EU
欧州連合の動きは非常に興味深くて、フランス主導で欧州に広がりつつあった3ストライクポリシー導入議論に対して、欧州議会は明確に反対(Amendment 138)を突きつけている。
また、欧州委員会もそれを承認している。
The European Commission accepts amendment 138 (Bono/Cohn-Bendit/Roithova) against the french "graduated response", one week after the French law is unanimously voted in first reading by the French Senate.
Commission accepts amendment 138 against graduated response | La Quadrature du Net
ただ、仏サルコジ大統領が議長を務めていた欧州理事会は、このスリーストライクポリシーに対抗するAmendment 138を削除しようとした。これに対しては猛烈な抗議の声が上がっている。その後の動向についてはあまり耳にしていないのだけれど、Billboardの記事を見ると、どうやらAmendment 138は削除されてしまったようだ。
ACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)
現在、知財エンフォースメントの国際的な法的枠組みとして、模倣品・海賊版拡散防止条約構想が話し合われている。この条約には、インターネット上における海賊行為も含めたエンフォースメントが含まれると考えられているのだが、しかしその詳細はひた隠しにされ続けている。これは、単に報じられていないと言うことではなく、情報の開示を求められても頑なに拒絶していることを意味している。
ただ、その一方で、RIAAによる同条約に対する要望書がリークされており、その中では、ISPネットワーク内のコンテンツフィルタリングの実装、繰り返し警告されたユーザに対するインターネット接続の制限または遮断、さらに然るべき措置を講じなかったISPに対する責任を求めている。
もちろん、これらの要望が盛り込まれているかどうかは、全く明らかにされていない。こうしたATCA会合の秘密主義に対しては、欧州議会からも「(欧州)委員会及び加盟国は、欧州市民に対し、最大限の透明性の下でATCA交渉を進めるよう」求める決議が出されている。
ISPレベルでの海賊行為への対処
以前から、ISPがインターネットのゲートキーパーになるべきだという意見はあったけれど、著作権侵害の抑制に関して、それがISPに対して強く求められるようになったのは2007年くらいだったかなと。
グローバルな音楽産業団体IFPIは、ISPによるコンテンツフィルタリング、P2Pファイル共有プロトコルのブロック、著作権侵害サイトへのアクセスブロック、そして、スリーストライクポリシーの導入を強く求めてきた。2008年を通してみても、そうした傾向は強かったように思える。そして、おそらくそのトレンドは今年も変わらないどころか、ますます強くなっていくものと思われる。
昨日リリースされたIFPIの年次リポート『Digital Music Report 2009 』の最初のページを見ても明らかだろう。
“ Governments are beginning to accept that, in the debate over ‘free content’ and engaging ISPs in protecting intellectual property rights, ‘doing nothing’ is not an option.”
John Kennedy, Chairman and Chief Executive of IFPI
このフレーズがページのど真ん中で強調されている。
‘doing nothing’というのは、これまでISP側が自らを単なる「パイプ」であるとして積極的に取り組むべきではない、としてきたスタンスを揶揄したものだろう。
日本でスリーストライクはあり得る?
まぁ、やってできないことはないだろうとは思う。ISPを間に挟んだ著作権侵害警告のユーザへの転送は既に行われている。
こうした枠組みでは、ISPはあくまでもメッセンジャーであり、受け取った警告をそのままユーザに転送するという役割で済む。個人的にはそこまで悪手だとは思わないのだけれど*2、この仕組みをそのままスリーストライクの下地にすることも可能であろう。
さらに、警察庁の有識者会議である総合セキュリティ対策会議の2007年度報告書に気になる記述がある。15ページより。
(1) 著作権侵害事犯への対処方法
「Winny等ファイル共有ソフトを用いた著作権侵害問題とその対応策について」(PDF) 警察庁 サイバー犯罪対策:総合セキュリティ対策会議
Winny 等ファイル共有ソフトを用いた著作権侵害行為を続けるものに対する直接的または間接的な対処方法としては、著作権法違反が疑われる程度に応じ、次のようなものが考えられる。
(中略)
イ アカウントの停止等
ISPは、悪質な著作権侵害を確認した著作権団体等からの要請を受け、悪質な侵害者による再発防止措置として、契約約款に基づく侵害(発信)者のアカウント利用停止(解除)等の措置を講じる。
もちろん、可能性の1つとしてあげているし、対象とする事案の範囲、手続き等について、著作権団体とISPとの合意が必要だとして、協議会の設置を求めてもいるのだけれど…。
さらに、ACTAは日本も関係する…、というより日本が提案したものであるため、その内容如何によっては日本でもスリーストライクアプローチの導入議論が湧き上がってくるかもしれない。