JASRACがワンタッチBBSを名指しで批判・警告する理由

JASRACのプレスリリースによると、携帯向けレンタル掲示板サービスを利用して、違法に音楽ファイルを配信していた掲示板管理人の男性が、著作権法違反(公衆送信権および送信可能化権の侵害)の疑いで逮捕されたとのこと。また、同掲示板サービスを利用して違法音楽配信を行っていた掲示板管理者の逮捕は、先月のケースに続いて二人目となる。先月のケースについては、Gigazine詳細に伝えている

これらのケースでなかなか興味深いのは、アップロード機能のついた携帯向け掲示板を利用した違法音楽配信であるということ。ある意味では、アップローダに近いものと言える。

違法着うたサイトの現状

違法着うたサイトの現状については、以前、当ダイアリーでもざっくりお伝えしたので、そちらも参照してもらいたいのだけれど、この違法着うたサイト界隈における大きなターニングポイントとなったのは、おそらく国内最大手の違法着うたサイトであった第(3)世界運営者/アップローダの逮捕だろう。第(3)世界の運営者人/アップローダの逮捕後、多数の違法着うたサイトが閉鎖している。もちろん、第(3)世界への法的措置を受けたというだけではなく、それに前後して行われたMUSIC GUARDIANSらによる違法サイトへの警告も影響していたのだろうが、やはり他の違法着うたサイト運営者にとっては、自分に対する法的措置への恐怖から、自らサイトを閉鎖していったのだろう。

あくまでも私の体感によるものだが、違法着うたサイトは減少しているように思える。以前として運営を続けている、新たにサイトが作られていることも否定しないが、以前のほどの勢いはないように感じる。ただ、そう思えるのは、自らサイトを構築し、ファイルをホストしているタイプの違法着うたサイト。一方で、最近気になるのは、二人の逮捕者を出したワンタッチBBSのようなケータイ向けアップロード機能付きレンタル掲示板サービス。

こうしたレンタル掲示板サービスでは、以前と変わらず着うたが違法流通しており、それを求めるユーザが後を絶たない。解説も非常に簡単にできるし、掲示板へのファイルのアップロードも簡単だ。あるユーザが「この楽曲が欲しい」とリクエストすると、他のユーザがアップロードする、という光景も当たり前のように目にする。ワンタッチBBSやあちゅらなどの掲示板サービスがホストする掲示板で。

JASRACによるワンタッチBBSへの警告

JASRACとしては、一連の事件に利用された「ワンタッチBBS」という掲示板サービスが音楽ファイルによる著作権侵害の温床となっているとの判断から、本日、愛知情報システム社に対して、同社が運営する同サービス内の掲示板における著作権侵害の監視体制を強化すると共に違法音楽ファイルの配信を即刻中止するよう警告書面を送付いたします。
 JASRACでは、携帯電話を使った著作権侵害が深刻な事態に陥っている背景には、愛知情報システム社のような事業者が、自ら運営する掲示板サービスにおいて著作権侵害が日常的に行われていることを認識していながら、自らは何らの回避措置も取らずに放置していることが原因のひとつであると考えています。

JASRACプレスリリース:福岡県警と筑紫野署が携帯向けレンタル掲示板の管理人を著作権法違反の疑いで逮捕〜同一掲示板サービスにおける二人目の逮捕者〜

JASRACは、これまで2名の逮捕者を出したワンタッチBBSに対し、名指しで批判、警告を行っている。「著作権侵害が日常的に行われていることを認識して」いると断言できるわけではないが、ある程度認識はしているだろうし、ある意味ではこれらのサービスにおけるウリにしているところもあるんじゃないかなと思う。「何らの回避措置も取らずに放置している」どころか助長している感もある。

こうした掲示板サービスを利用して音楽ファイルのやり取りが行われることも少なくなく、Googleで軽く検索しても簡単に、そして多数引っかかる。(類似した投稿板サービスを提供しているあちゅらだとこんな感じ。)

もちろん、上記の検索例のように、ファイルフォーマットで検索して片っ端からダウンロードする人などはいなくて、欲しい楽曲、アーティストの名前で検索をかけるのだろう。ワンタッチBBSをアレゲな方法で利用しているユーザにとっては、ワンタッチBBSがそうしたニーズにも応えているということは良くおわかりだろう。わざわざGoogle検索に頼らずとも、簡単に探す方法を同サービスが提供しているだから。

掲示板横断検索サービス

ワンタッチBBSは検索機能をトップに置いている。実際に検索をかけると、任意のキーワードを含む同掲示板サービスへの最新の投稿が閲覧できる。対象は同サービスを利用して書き込まれた投稿全て。更にその下には人気検索ワード集一覧へのリンクが張ってあり、ワンタッチBBSでどんなキーワードが検索されているのかがわかるようになっている。

人気キーワードをみてみると、半分以上がミュージシャン、残りがエロ、アニメに関連したキーワードであることがわかる。「画像も動画も見れる!無料レンタル掲示板」というのがウリでもあるので、ジャンルが偏るのも当然といえば当然であるのだが、ミュージシャンが人気ワードになっていることを考えると、音楽ファイルのアップロード、ダウンロードもウリの1つになるのかな。Googleさまもそうおっしゃっている。

まぁ、それはともかくとして、上記の人気検索ワードからたどってみると、やはり音楽ファイル、画像ファイル、ビデオファイル目当ての検索であると推測される。

たとえば、人気キーワードに上がっている「GIRL NEXT DOOR」をクリックして検索結果を見てみると、

こんな風に、リクエストやアップロードされた画像、音楽ファイルがすぐに見つけられるようになっている*1上記スクリーンショットでもわかるように「2009.05.23 mp4(2181KB)」というファイルフォーマットやファイル容量、コメントを頼りに検索結果を閲覧していくだけで、お目当てのアーティストのお目当てのファイルを手に入れることができる。新曲であれば、大抵数クリックでたどり着けるだろう。

もちろん、JASRACとしては頻繁に違法アップロードされているという事実をもって警告しているのだろうが、違法にアップロードされたファイルへのアクセスの容易さも相まって、かなり強めの警告になっているというところもあるのかなと。

責任の所在の曖昧さ

確かに違法にアップロードされたコンテンツをホストしているのは、ワンタッチBBSに他ならない。しかし、同サービスが提供しているのは、アップロード機能付きの掲示板サービスであって、そこでユーザが勝手にしたこと全てに対して責任を取れというのは酷な話ではある。ある程度ユーザに自由を与えるサービスであれば、ユーザがそのサービスを利用して違法行為を犯す可能性をゼロにすることはできないし、そうした自由を与えられないのであれば、ユーザはオンラインで何もできなくなる。その辺の葛藤は、サービスプロバイダがプロバイダ責任制限法に従い、適切に対処を行うことでクリアしうる問題であると思われる。

ただ、そうした責任を負っていますよ、というだけでは、摩擦はなくなることはないだろう。ニコ動にしてもYouTubeにしても、ユーザの自由な行動を可能にしつつも、著作権侵害を抑制するための取り組みを行っているし、権利者側からの予防的対処への要望に対しても、積極的ではないにしても応じる姿勢は見せている。そうした取り組みは義務だとまではいかないが、可能な限り紛争を避けることを望むのであれば、そうしたスタンスを見せることが必要だろう。

もちろん、世の中には物好きというか、確信犯な奴らがいて、著作権絡みの紛争に自ら突っ込んでいく、なんてこともあるけれど。

*1:検索結果は新しい順に並ぶが、横断的に検索されているのでそれぞれの発言に対応がない場合がほとんど。