ねとらじ配信者、著作権侵害で逮捕とその背景

インターネットラジオサービス「livedoorねとらじ」を利用して、JASRAC管理楽曲を無許諾でライブストリーム配信していた男性が逮捕されたとのこと。

ねとらじユーザー、著作権法違反で逮捕〜音楽の違法ストリーム配信で -INTERNET Watch
音楽ファイルを違法にライブストリーム配信しているインターネットラジオ番組運営者を著作権法違反の疑いで逮捕 - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

JASRACのプレスリリースによると、

今回の事件は、インターネットラジオサービス「livedoorねとらじ」を利用して開設されたラジオ番組「★★★★BGM★★★★ by kei」において、約2万曲もの音楽ファイルを違法にライブストリーム配信していた

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

のだとか。ライブストリーミングでのBGM垂れ流しは、ねとらじでも昔からあったみたいだし、ねとらじに限らずUstream、Justin.tv、Stickamなどのビデオストリーミング、Peercast他の個人での音声ストリーミングなどでもよく見かける。

この番組名から番組運営者のサイトを探したところ、ほとんどそのまんまの「みゅーじっくBGM by kei」というサイトが見つかった。

ざっと見たところ、仕事中に個人用にBGMとして流している音楽をそのままネットラジオとして配信していたようだ。時間帯は平日午前9時から午後5時半くらいというまさにお仕事中の時間帯。配信期間についてはわからないが、掲示板をたどってみたところ、2008年6月にこの番組へのコメントが書き込まれているところを見ると、2年近くは配信を続けていたのだろうか。配信の頻度については不明だが、最終配信日が2010年4月5日となっており、少なくとも最近はさほど熱心に配信していたわけではない様子。

人気(聴取者)については、サイトへのアクセス数19757*1、掲示板への書き込み数18件*2最後の配信時の最大リスナ数3人、述べリスナ数140人を考えると、それほど熱心に聞かれている番組ではなかったのかなとも思える。

また、JASRACのプレスリリースにある「約2万曲もの音楽ファイル」というのも、「彼の音楽ライブラリ=配信される可能性があるもの」としてカウントされたのだろう。

ねとらじというサービス

この「ねとらじ」については、ユーザがそれほど面倒なく配信できるサービスだなぁ程度の認識。さほどよく理解しているわけではない。ちょろっと試してみたところ、livedoorアカウントが必要とかいうこともなく、配布されているツールを使うだけで配信することができた。仕組み上、ねとらじ運営側が配信者の連絡先を把握しているということもなく、警告の意味合いでのコンタクトも取れないんじゃないだろうか。

ただ、「★★★★BGM★★★★ by kei」という番組自体は、アドレスを固定して配信していたようなので*3ねとらじ側が遮断することもできなくはなさそう。

それはともかくとして、配信者の連絡先がわからないのでは、事前に警告を出すのは難しい。ただ、配信者に対する警告はできない仕組みであったにせよ、「ねとらじ」を提供するlivedoorへはJASRACから何かしらの、たとえば違法配信への対処や契約などの打診はあったのかもしれない。もちろん、最初からそんなモノには期待せずいきなり告訴に踏み切った、とも考えられるけど。こればっかりは関係者以外にはわからないところ。

結果論ではあるが、JASRAC包括契約を交わしたYouTubeニコニコ動画のユーザが、アップロード行為によりコンテンツを削除されることはあっても、JASRAC管理曲に絡んで逮捕にまで至ることはなかった。

ちなみに、ライブストリーミングサービスでは、Stikam JAPAN!JASRACと使用契約を交わしているようだ。あとニコ生もだね。

追記

読売新聞によると群馬県警がサイバーパトロール中に違法配信を発見し、JASRACに連絡、今年4月にJASRACからの告訴をうけて捜査を開始したとのこと。

ライブストリーミング配信による著作権侵害

インターネットラジオのようなストリーム配信型の違法音楽配信に関して、著作権法違反の疑いで逮捕者が出たのは今回が初めてのことです。

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

違法音楽ストリーミング配信による検挙事例はこれが初になるのだろうが、動画ストリーミング配信では、Peercastでの映画配信で逮捕という事例が2件ほどあった。

2009年9月: PeerCastで公開前映画を配信、男性を逮捕 - もうだめぽ日記
2010年2月: PeerCastで映画を配信の男性、著作権侵害で逮捕 - もうだめぽ日記

海外でも、ボクシングプロモーター企業Square RingがPPV配信コンテンツをライブストリームされたとして、Ustreamを訴えていたりする。

ライブストリーミングサービス(引用註: による著作権侵害)は、YouTubeなどとは異なり、その場限りでの著作権侵害であるため、追跡することが難しく、対処しがたいものかもしれない。もちろん、事前に再配信されることが予測できる場合、定期的に海賊ライブストリーミングを行っている場合には、ある程度予測できるものではあるが、その実際にストリーミングされているリアルタイムで尻尾を掴まなければならない、という点で大きく異なる。もちろん、その反面、利用者もリアルタイムで視聴しなければならないために、YouTubeなどと比べると、いわゆる「被害」もそれほど広範囲にわたるものではないのだが。

PeerCastを利用し劇場公開前の映画を配信した男性、逮捕される - P2Pとかその辺のお話@はてな

JASRACには解決できない問題

購入したCDや音楽ファイルをネットラジオでかけようと思っても、現状にあっては著作権著作隣接権の制限もあって、まずかけられるものではない。もちろん、著作権(歌詞や曲)については、JASRACやe-license、JRCなどの著作権管理事業者と包括契約を交わしているサービスを利用するか、そうでない場合には個人が著作権管理事業者に使用申請して、お金を支払えばクリアできる。が、これでクリアできるのは自分でその曲を演奏する場合に限られ、著作隣接権、つまり音源については原盤権者を探し出し、別途許諾を得なければならない。しかし、一般ユーザ向けに原盤権者が音源使用を許諾してくれることはまずあり得ないだろう。

音源については、JASRACが解決しうる問題ではない。そもそも管理してないんだから。米国のネットラジオで音源をかけることができるのは、SoundExchangeというネットラジオ*4向けの徴収団体があり、そこが許諾を出しているため。日本ではネットラジオでの音源の使用に関して許諾を出せる団体がない。結局、お金を出しても使用はできないという状況にある。

ただ、先日、JRCジャパン・ライツ・クリアランス)とUstreamとの包括契約についてアナウンスがあったが、この取り決めでは音源使用についても一部許諾する内容となっていた。

中でも「スピッツ」「ホフディラン」「Sweet Vacation」「ムック」らの作品は音源にかかる許諾も示されております。尚、このホワイトリストは随時更新されてゆくことが予定されており、今後もマイスペースJRCや(社)音楽制作者連盟などの権利団体の協力を得ながら、USTREAMユーザーが安心して音楽を使用できる枠組み作りを共同で推進致します。

マイスペース上のUstream配信の楽曲利用について、JRCから利用許諾を受ける運用スキームを開始 - マイスペース株式会社

つまり、このホワイトリストにて原盤使用が許諾されているものについては、Ustreamで流しっぱなしにしてもいい(少なくとも許諾期間内はね。)、ということ。

まぁ、この辺はJASRACには期待できないけど、他の団体が柔軟に需要に対応してくれることを期待したい。

余談:腑に落ちない…

今回のネットラジオ配信者の逮捕に関するJASRACのプレスリリースの最後に以下のような記述がある。

本年1月から改正著作権法が施行され、上記のような違法配信サイトやP2Pソフトのネットワークから違法と知りながら音楽をダウンロードする行為については違法とされていますので、ご注意ください。

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

少なくともこのプレスリリースでは「上記のようなサイト」=「livedoorねとらじ」なんだけど、CGMサイトに対して違法配信サイトと言い切ってしまうのはどうかと。しかも、ねとらじはストリーミングサービスを提供しているわけで、「ダウンロードする行為については違法とされています」と言われてもねぇ…。

まぁ、この文言自体は、この手の違法配信系のプレスリリースのフッターとしてとりあえずコピペされてるだけみたいなので、揚げ足取りといえば揚げ足取りなんだけどさ。

あともう1つ。

本件のような違法音楽配信は、音楽文化の発展の妨げになることから、JASRACとしては、今後も引き続き警察と連携し、ネットワーク上での違法配信の撲滅に積極的に取り組んで参ります。

プレスリリース - 日本音楽著作権協会(JASRAC)

音楽文化の発展の妨げになるかどうかは、JASRACの主観でしかないよなぁ。それを明確に示すデータがあるわけじゃないし。正確に言えば「私たちの音楽ビジネスの妨げ」ってとこだよね。

ただ、音楽文化の発展を妨げているのはJASRACだろ、って突っ込みもあったりするけど、私は必ずしもそうだとは思えないよ。少なくとも、促進している部分もある。JASRACに限らず、著作権管理事業者がニコニコ動画YouTube包括契約を交わすことで、ユーザの側がそれぞれの管理曲を演奏したものを公開するハードルは格段に下がったわけでさ。それはJASRACとかだけじゃなくて、配信サービスの側の努力でもあるんだけど、ユーザが演奏したものを公開して、それを別のユーザ達と共有して楽しむという形が安定して作り出されているだけでも、音楽文化への1つの貢献だと思うな。

*1:本エントリ執筆時点

*2:逮捕以前の書き込み

*3:http://std1.ladio.net:8010/musick_kei.m3uというアドレス。スラッシュ以下がユニークなID。

*4:とサテライト