「ファイル共有の利用に関する調査」に呆れるの巻
今年度版の「ファイル共有の利用に関する調査」が公表された。この調査は、これまでACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)がユーザへのアンケート調査、Winny/Shareなどのクローリング調査をそれぞれまとめて公表していたのだが、今年はアンケート調査をCODA(コンテンツ海外流通促進機構)を、クローリング調査をACCSが行い、それぞれ公表した。
今年度のアンケート調査では、これまでのPC向けウェブアンケートに加え、新たに中高生を対象にモバイルによるアンケートを行っている。なかなか興味深い試みだ。
とりあえず、アンケート調査からざっと目を通しているのだけれど、腑に落ちないことがあったので、とりあえず突っ込んでみるよというお話。
ファイル共有ユーザの割合
今年度調査の結果、現在ファイル共有を利用しているとされるユーザは調査対象全体の5.8%、過去の利用していたとされるユーザは全体の12.8%であった。以下、これまでの現在利用者、過去利用者の割合の推移をグラフにした。
ただこのグラフ、2点ほど注意が必要な点があって。1つめは、「現在利用者」の定義が、時期によって異なること。2006〜2010年度は調査時より過去1年以内にファイル共有ソフトを利用したと回答したユーザ、2005年度は過去半年以内、それ以前の調査では特に期間については定めてはいない。2つめは、年度によって調査会社が異なること。2002年〜2006年度は「WEBアンケートサイト」、2007〜2009年度は「アイリサーチ」、2010年度は「マーシュ」が調査を実施しており、各回答者/リサーチモニターの属性の違いが結果に反映されている可能性もある*1。
グラフを見ると、2010年度調査で現在利用者がガクッと減ったなぁと思えるのだけれども、「やめた理由」を分析にするのはなかなか難しい。2009年11月末のShareユーザ一斉摘発、2010年1月の改正著作権法施行(ダウンロード違法化)のせいじゃないか、と思われるかもしれないけれども、「現在利用者」の定義が「2009年11月以降にファイル共有ソフトを利用したことのある者」とされているので、一斉摘発、ダウンロード違法化をきっかけにやめたとしても、厳密に言えば「現在利用者」に含まれてしまう。
なお、「過去利用者」の定義も「2009年11月以前にファイル共有ソフトを利用していた者」と定義されているので、2000年にNapsterをやめたユーザも、2009年のはじめにShareをやめたユーザも一律「過去利用者」になる。
ウィルス感染、情報漏洩が怖いから?
利用率低下の要因については、ファイル共有ソフトの利用をやめた人や利用していない人の回答結果から推測すると、「15歳以上」「中学生・高校生」ともに、コンピュータウィルスの感染や情報流出への心配などが、大きな要因となっていることが考えられます。
CODA - 一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構
また著作権侵害に関する問題も、ファイル共有ソフトの利用をやめた理由としてあがっており、特に「中学生・高校生」ではその傾向が顕著になっています。
ただし、2010年1月の改正著作権法施行による、いわゆる「ダウンロード違法化」については、「15歳以上」の「やめた理由」や、「15歳以上」「中学生・高校生」の「利用しない理由」としてあげている人は少数であることから、利用率への影響は一定割合にとどまっていることも推測されます。
ファイル共有ソフトの利用をやめた理由として、ウィルス感染、情報漏洩への懸念が大きな要因とされているけれども、その割合は過去の調査と比べても大して変化してはいない。実際、現在利用者の割合が激増した2007年度調査でも同様の結果が出ている。もちろん、ウィルス・情報漏洩への懸念は強い抑制要因だろうけれども、2009年度から2010年度にかけての利用率低下を説明できる要因ではないように思われる。
そもそも、利用をやめたユーザ(過去利用者)のデータは「いつやめたか」に関わらず積みあがっていくので、直近1年間の変化を説明できるほど、きれいなデータではない。「2009年10月までにやめた人」がどういう理由でやめたのかがわかる程度だ。2009年度から2010年度にかけて利用をやめたユーザに絞って抽出できれば、いろいろとわかりそうなんだけども。
ダウンロード違法化の影響
ダウンロード違法化の影響についても分析しているけれども、改正著作権法施行直前、直後にやめたユーザを現在利用者に含むような定義を用いているのだから、そもそもこの調査自体がダウンロード違法化の直接的な影響を推測できるようなデザインにはなっていない。
もちろん、「現在利用者」が「2009年11月以降にファイル共有ソフトを利用したことのある者」と定義されていたとしても、回答者が自分がやめた時期を詳細に記憶しているとも限らない。だから改正著作権法施行後にやめていたとしても、過去利用者に該当するような項目にチェックすることは考えられる。とはいえ、調査する側がそれを期待するとか、前提にしてはいかんだろ。
2009年10月以前に利用をやめた過去利用者に「ファイル共有ソフトの利用をやめた理由」を聞いているのに、「2010年1月に著作権が改正された」という項目を用意すること自体おかしいんだよね。直近1年以内の利用経験者を現在利用者、それ以前の利用経験者を過去利用者とする定義は、調査する側の想定する範囲すらハズしているんだと思う。
現在利用者の定義は、自己申告→過去半年→過去1年と拡大されてきた。今更「定義を拡大して、急増してるように見せかけたかったんですな」と揶揄するつもりはないけれど、まともな分析すらできなくなるような不明瞭な定義を使い続けるのは、もうやめた方がいいんじゃないのかしら。ユーザの利用頻度等の傾向を踏まえる必要はあるだろうけれど、個人的には直近1ヶ月とか、長くとも3ヶ月くらいが現在利用者かなという感覚。直近1年の利用について聞くこと自体は問題じゃないけど、より詳細に分析するためには、直近1年の利用を現在利用者とする定義は無理があると思う。
余談:で、実際にダウンロード違法化の影響はあったの?
詳しくはまだ考察できていないんだけど、ダウンロード違法化の影響はあったのかなかったのかをざっくりと考えてみたい。
今回の調査は、中高生を除く15歳以上を対象としたPCアンケート、中高生を対象としたモバイルアンケートの二本立てで、前者は従来の調査を引き継いだかたち、後者は新たに行われた試みだった。
ダウンロード違法化の影響については、利用をやめた過去利用者の「やめた理由」についての回答結果から推測されている。PCアンケートについては、このエントリにて指摘したように、ダウンロード違法化の影響が、それより遙か以前にやめたユーザの回答の中に埋没してしまうので、ダイレクトにその影響を切り出すことは難しい。それでも、回答者の12.6%が「2010年1月に著作権法が改正された」をあげている*2。
一方、ダウンロード違法化云々以前にやめたユーザの積み上げ分が相対的に少ないであろう中高生向けのモバイルアンケートの結果を見ると、やめた理由として「2010年1月に著作権法が改正された」が21.9%で、1位の「ウィルス感染が心配だった・ウィルスに感染した」の24.0%に次いで2位となっている。
また、ACCSが行ったWinny/Shareのクローリング調査を見ても、ノード数の大幅な減少が見られているし、ネットエージェントのクローリング調査でも、2009年11月の一斉摘発後、2010年1月の改正著作権法施行後に、それぞれ大きくノード数を減らしていることが見て取れる*3。
これらを総合して考えると、ダウンロード違法化の効果ってそれなりにあったんじゃないの?って思うんだけどね。もちろん、元々ウィルス、情報漏洩への脅威があって*4、さらに一斉摘発を含む摘発が活発化した等々の状況も合わせて、ってところかなと。