サンデー・ミュージシャン:ミュージシャンという「生き方」

ここのところ、音楽やミュージシャンとお金のお話をお届けしてきたのだけれど、今回はそれとは逆向きのお話。直接的にはビジネスには繋がらない、そんな音楽のあり方。

昨今では、たとえばJamendoだったり、ニコ動のVOCALOID界隈だったり、もちろんそれ以外のところでも、個人が趣味として音楽を作り、アップロードして、たくさんのリスナーがそれを聴く、というのが1つのかたちとして確立しつつある。それは今に始まったことではないのかもしれないけれど、インターネットというツールが普及し、様々なツールが作られ、それを容易に利用することができるようになったことで、これまでの「時間的」「地理的」な制約を大幅に緩和し、たくさんのリスナーの耳にサウンドを届けることができるようになった。

その一方で、これまで多くの人にとっての「音楽」を意味していたであろうメジャー流通は、苦境に立たされている。今までも一部のミュージシャンにのみ開かれていた狭き門も、ますますその門戸を狭めつつある。

今や、ミュージシャンとして活動を続けていくために、まずはビジネスありき、という時代でもなくなってきたように思う。そうした考えに至るとしても、人それぞれ、様々な背景や体験があってのこと。

ミュージシャン、プロデューサーで、Scudelia audio terminalというレーベルも立ち上げている石田ショーキチは、かつてのレーベルメイトでもあった黒沢健一との対談の中で、自身のレーベルの目指すところ、そしてそこに至る背景について語っている。

石田ショーキチ:[ミュージシャン石田ショーキチとレーベルの音楽性の違いについて]わかりやすくいうと、趣味と商売の違い(笑)。あのレーベルの運営自体が、趣味でやってるというと変だけど、特殊なやり方してるんですよ。ビジネスとしてはあまり本気じゃない。でも、絶対赤字が出ない方法でやってるのね。逆にいったら、もの凄いアタリは狙いにもいけないかたちではあるんだけど。身近にいる自分の気に入った仲間、バンドに俺で良かったらウチで出してみる?録ってみる?みたいな形でやっているのね。

普通に流通どこどこに出して、どこどこに販売ってやっていくと、結局バンドにお金って全然残んないじゃん。それってすごくかわいそうだなと思うし、せっかく作ったものを売ったら、もの凄くたくさん売れないまでも、このぐらい売ったらこれくらい入りましたよっていう実感をバンドさんに味わってほしいなと思って始めたレーベルなんだよね。

黒沢健一そういうシステム、音楽のやり方がいろんなバンドの人たちに広まって欲しい、そういうやり方を音楽をやる1つの方法として提示したいっていう、プロデュース方法とか、やり方(レーベル)ってことだよね。

石田ショーキチたとえば、バンドがCDを出してメジャーメーカーと契約して、音楽だけで生活していこうとなると、普通に考えて、アルバム2万枚くらい、毎年1枚必ず作って売っていくということが、ずっとできていかないとメンバー全員食えていけないじゃん。今のご時世、CDの売り上げみるとさ、ずいぶん悲惨なことになってて、2万枚をコンスタントに売るってのはだいぶ大変なことだよね。

そういう世の中で、音楽を職業音楽家としてバンドをやっていくっていうのは、もの凄くわかりやすくいうと、だいぶ不可能、に近いと思うんだよね。若い子らがやろうと思っても。

実際ここ数年プロデュースしてきた若いメジャーのバンドの子らでも、メーカーと契約があっても、どうしてもアルバイトしなきゃいけないとかね。僕らの若い頃とだいぶ境遇が違うんだよね。それでもメジャーと契約できる人っていうのは一握りなわけで、その一握りの人をメーカーはゲットして、宣伝費をかけ、制作費をかけ、ってやっていくなかで、なかなか売り上げは伸びないから利益を出すのは難しい。

そういう風になってくると、何のためにビジネスをやっているのか、意味がわからなくなってくるんだよね。

石田ショーキチの時事放題 vol.01 黒沢健一さんと石田ショーキチさんの音楽未来像 (4/4)OffStageTalk

置かれている境遇はレーベルや事務所によってさまざまだろうから、一律このような状況にあるとまでは思いにくいのだけれど、実際に目の当たりにしたバンドがそうであった、と。若手にかけられる宣伝費、制作費も以前ほどではないことを考えれば、利益に結びつけるのはますます難しくなっている。

もちろん、メジャーでデビューしたとしてもほとんどのバンドはメジャーから消えていく、それは今に始まった話ではないのだけれども、セールス的な結果や、その結果を出すまでの期間など、相当にシビアになってきているようにも思える。

では、ビジネスにならなければ、音楽で稼げなければ音楽はできないのか、というとそんなことは全くなくて。

石田ショーキチ生活費なんていいんですよ。自分で(稼げば)。バイトで稼ぐもよし、普通に正社員として社会人として働くのもよし、生きていく糧なんていくらでもあるんですよ。ただ、ミュージシャンとか音楽家っていうのはさ、職業の名前でもあるけど、人の生き方の問題じゃん。別にプロのミュージシャンじゃなくてもいいと思ってるの、僕は。週末だけ音楽やる人でも十分だよ、楽しんでいければそれでいいと思っていて。

たとえば、僕のレーベルで、レコーディングして録るでしょ?今、千枚、二千枚を売るのも大変な時代に、自分のライブにきてくれたお客さんに二百枚、三百枚売っていっても、二百枚三百枚しか売れなくても、これだけお金が残ったってことを、ダイナミックに感じて、「こんなにもらえたんすかー!?」っていってもらえる。わざわざ、お金になるのか、ビジネスになるのかわからないメジャーに無理して挑戦して、カツカツな思いをしていくのと・・・

黒沢健一それよりもっと、音楽的に豊かなことを考えましょうっていうね。

石田ショーキチの時事放題 vol.01 黒沢健一さんと石田ショーキチさんの音楽未来像 (4/4)OffStageTalk

石田ショーキチ流通に乗っけて、レコード店で売ってもらって、っていうと、生臭い話すると、流通と店頭で45%ぐらい持って行かれるんだよね。その残った中を、レコードメーカーが持ってって、JASRACにもっていかれてってなると、ホントのバンドに何もお金が残らないんだよね。

そんなことするくらいなら、ライブにきてくれた人たち、自分の目の前で演奏されてその感動を感じてくれたお客さんは、その感動のままCDを買ってくれるっていう、すごく・・・美しい形のコミュニケーションっていうかさ、いいライブをやったらそれに感動したお客さんがCDを買ってくれるっていう。手売りで手から手へ、何なら握手もして、CDが渡っていって、で、それなりの見合ったお金が入るっていう、すごくいい形だと思っていて、理想っていうかね。

もの凄いでかい需要は見込めるとは思わないけども、君らがライブをやって動いていく限り、そのマーケットはずっと君たちが生んでいって、生み続けていくことができる、だからライブをがんばってやってねっていう。だから、基本ライブができる人しか、俺はやらないんだよね。

石田ショーキチの時事放題 vol.01 黒沢健一さんと石田ショーキチさんの音楽未来像 (4/4)OffStageTalk

「基本ライブができる人」というのは、そうじゃなきゃいけないというよりは、石田ショーキチの趣味というか、スタイルってところなのかな。だから、ライブしなきゃダメってわけじゃなくて、それとは別の楽しみ方もあって、その中で楽しんでいければよいのではないかと。ライブのかたちもライブハウスでジャーンってやるだけじゃなくて、たとえば自宅からUstreamでやることもできて、そのあとにCDとかTシャツとか並べて「良かったら買ってね!」なんてやりとりすることだってできる。手売りとはいかないけど、通販、配信のURLを流しつつ、「買ったよー」なんて言ってくれた人に「ありがとー」と返すことだってできる。

石田ショーキチ人間として普通に生活して、社会にちゃんと自分の椅子を一個置いといて、趣味としての音楽があって、音楽と楽しくつきあって、かつ、ライブやってCDが売れたら、ホラこれだけ入るじゃないですか、っていうような人生ってどうなの?っていうのが僕の提示なんだよね。

ビジネスの中で音楽活動を続けていこうとなると、確実に黒にしていかないといけない。でも、趣味、ホビーとしての音楽活動であれば、「自分自身が自分のパトロン」でありさえすればいい。

今の時代は、そういう人たちにとって、すごく充実した時代になってきていると思う。サラリーマン、自営業、専業主婦、ご隠居、学生、誰であろうが、音楽を作って公開することができる。そのためのツールは既に無数に存在し、これからも生まれ続ける。

今までのかたちがなくなるとも、なくなって欲しいとも思わないけど、その一方でそれとは別のかたちやあたらしいかたちが拡大していくことは素直に喜ばしいと感じる。「まずはビジネスありき」ではなく「まずは音楽ありき」、そんな時代になっていくのだとすれば、wktkが止まらんよね。