GIGAZINEさん、読者が勘違いしてますよ:ファニメーションは『ファン作成字幕をそのまま流用』してないよ

海外の公式アニメ配給元が違法海賊版のファン作成字幕をそのまま流用していることが判明 - GIGAZINE

どうもこの記事を読んだ一部の読者さんが「海外の公式アニメ配給元(ファニメーション)がファンサバーの翻訳を流用している」と勘違いしているご様子。

なぜか正式にライセンスを受けているはずのFunimation自身が海賊版の字幕を流用しているという問題が浮上してきたわけです。

この問題を最初に指摘したのはAnime News Network(ANN)のフォーラム。以下のシーンが指摘された問題の箇所となります。

これがFunimationが使っているもの。

そしてこっちが違法な字幕。どう見ても完全に同じものです。

このことが判明したのはこのレコーディングのショット。これに映っているモニタからわかったという流れです。

このことについてANNのCEOであり、アニメのライセンスに詳しい「tempest」氏が議論に参加し、法的解釈に従うならFunimationは正式なライセンス所得者であり、よって字幕ファイルに関して使用する権利はFunimationにあるが、だがしかし字幕に使用されているフォント自身の許諾をFunimationが得ているかどうかはわからない、としています。

しかし問題は法的な部分ではなく、むしろBitTorrent上での字幕付アニメを取り締まっておきながら自分たちはその字幕ファイルを利用しているという偽善行為にこそ問題があるとして、Funimationは非難されているようです。

海外の公式アニメ配給元が違法海賊版のファン作成字幕をそのまま流用していることが判明 - GIGAZINE

この件、いろいろと背景がごちゃごちゃしていたり、わからないことがあったりして、かなり面倒なので、状況を整理しつつ、まとめておきたい。

ファニメーションは何を使っていたのか

この問題は、「America's Greatest Otaku」という番組で、ファニメーションの吹き替え録音室の映像を撮った際、モニターに海賊版アニメの映像が映り込んでいたことが、フォーラムにて指摘されたことで発覚した。

その指摘の根拠として、映り込んだアニメの字幕と、Horriblesubsというファンサブサイトの字幕のスタイルが一致したこと、そのファンサブサイトの字幕は独自のスタイルなので偶然かぶることはまず考えられないことが挙げられた。

では、問題のファンサブサイトHorriblesubsはどのようなファイルを配布しているのか。

下の画像には「このウェブサイトでは、我々のリリースないしトレントをホストしてはいない」とある。ただし、Torrentホストサイト(NyaaTorrents/TokyoToshokan)へのリンクと、サイバーロッカー(Fileserve)へのリンクをはっており、リンク先では当該のアニメのトレントやファイルそのものがダウンロードできる。また、それらのファイル名には「[HorribleSubs]」が含まれており、同サイトの誰かがアップロードしたものにリンクをはっている思われる。

また、配布されているのはmkv形式の動画ファイルのみで、字幕ファイル(たとえば.srtファイル)を配布してはいないようだ。

ANNフォーラムの指摘によると問題のビデオは「そらのおとしもの」第1シーズンの第3話*1であるという。トレントサイトのアーカイブを探してみたが、字幕ファイルは確認できなかった。

おそらく、ファニメーションの吹き替え録音室の誰か(またはその関係者)が、(字幕ファイルではなく)mkv形式の動画ファイルをダウンロードし、現場のモニターで使用したのだと思われる。

字幕はどこから?

映像につけられた字幕はどこからきたものか。上記トレントサイトの画像のコメント*2にあるように、動画そのものはCrunchyRollの正規ストリーミング配信から抜き出したもののようだ。

また、フォーラム上では、字幕(翻訳)がCrunchyRollで使われていたものだという指摘もあり、さらに、最近Horriblesubsが投稿したトレントのコメントには、「字幕のミスはすべてCrunchyRoll様のご提供によるものです(Any errors in the subs are to the courtesy of Crunchyroll)」とある。

同サイトの規約らしきアナウンスでも

HorribleSubs - Download or Torrent your favourite anime !

と、正規流通もの(いずれも字幕付)のみをリップするとある。

総合して考えると、このサイトが独自に翻訳し、それを字幕としてつけたわけではなく、正規版の映像を拝借し、正規の翻訳字幕を抜き出し、字幕にサイト独自のデコレーションを施してリリースしているだけ、ということになる。ファンサバーじゃなくて、パイレーツだね。

あと、CrunchyRollが使用した翻訳字幕がどこから来たものか、独自に翻訳したものなのか、それとも既に用意された翻訳字幕スクリプトを使用したものなのかはわからない。

なんでファニメーションは海賊版を使ったのか?

「America's Greatest Otaku」のスクリーンショットを見る限りでは、この海賊版ビデオは吹き替え録音室のモニター用に使われたようだ。

だが、なぜここで海賊版が使われたのか、これがよくわからない。ライセンシーなのだから、映像そのものやCrunchyRollで使われた字幕を使える立場にあるのに、なぜあえて海賊版を使ったのか。

個人的な推測だけど、現場で一番使いやすい形式だった、とか、現場で一番手にいれやすかった、とか、理由としてはすごく大したことのない理由だと思う。

ファニメーションと言えば今年1月、海賊版対策が不十分としてアニメ『フラクタル』の北米同時配信の停止を製作委員会から要請されたりしている。たぶん、日本の製作サイドはファニメーションの姿勢に、実力行使する程度にはフラストレーションを覚えているのだろう。こうした事情もあってか、その1週間後にアニメ『ワンピース』をBitTorrentでダウンロード/共有したユーザ1,337名に対して訴訟を起こしている

訴訟を起こすにしても、おたくの製品の海賊版を流してますよって宣言して実際に流しているようなところからダウンロードしちゃう程度に、身内がゆるゆるだったりするのは、ライセンサーとの信頼関係を崩しかねないよねぇ。アホなことするな、と徹底させるのは当然としても、そうしなくてもいい環境を作ることも大事よね。

余談:フォントの著作権問題って何なの?

「アニメのライセンスに詳しい『tempest』氏によると、「問題のフォントが(ハードコードではなく)ファイルとして添付されていたとしたら、HSはフォントを配布する権利を有していないと思われる。Funimationがフォントについて適当なライセンスを受けていないのであれば、同社は意図せずフォントの著作権を侵害したことになる」という。

とりあえず、これは字幕の付け方(ハードサブかソフトサブか)によって生じる問題みたい。

ハードサブっていうのは、映像の1コマ1コマに字幕を焼き付けてしまうようなやり方。当然消せない。ただ、この場合は再生環境に依存することなく、表示したい字幕をイメージのままに表現できる。

ソフトサブは、映像とは別に字幕用ファイルを用意して、再生ソフト側が字幕をオーバーレイ(別レイヤーに)表示するようなやり方。これだと字幕のオンオフができるし、位置の調整、フォントの変更もできる。ただ、再生環境に設定されたフォントがなかったりすると、作り手の意図しないようなかたちで字幕が表示されることもある。

で、HorribleSubsの海賊版ビデオはどうだったのかっていうと、実際にダウンロードしてしまうと違法ダウンロードになってしまうので検証できないけど、おそらくmkvコンテナの中に、映像ファイル、字幕ファイル、フォントファイルが埋め込まれているんじゃないのかなと。

この件が発覚したのも、HorribleSubsの字幕が特殊なフォントを用いて描画していたことに由来する模様。ただ、フォントファイルがパッケージされたmkvコンテナを使用したとして、それが著作権法上、どのような問題を引き起こすのかは、ちょっとよくわからない。結果的には、業務上、無断で著作物(フォント)を使用したことになるのだろうけれども。

もう一つ余談

一応、GIGAZINEさん宛に書いたエントリだけれども、GIGAZINEをDISってるわけじゃなくて、勘違いされる部分もあるから指摘するよってところです。

私も元記事を翻訳したけれども、タイトルだけでは勘違いされかねない部分もあって…。

一応、本文で勘違いされないように補足説明を加えているけれども、私の記事でも勘違いされた方もいるかもしれないので、改めて記事を書いたという次第であります。ばっちりわかるタイトルをつけられたら良かったんだけどね、反省。

*1:"Sora no Otoshimono (Heaven's Lost Property), season 1, episode 3, 08:42"

*2:"Courtesy of Crunchyroll :D"とある。「Crunchyroll様よりご提供」といったところか。当然のことながら、許可は得ていないだろう。