Megaupload摘発、サイバーロッカー(オンラインストレージ)は終焉を迎えるか

Megaupload摘発の件で何か書いてちょ、とリクエストを頂いたのでちょろっと書いてみる。Megaupload摘発の件については、GIGAZINEがまとめているのでこちらを参照のこと。

「Megaupload」閉鎖&FBIが運営者を逮捕、驚愕の運営実態と収益額が判明 - GIGAZINE

サイバーロッカーの現状

Megauploadはオンラインストレージの1つではあるのだけれど、海外ではこの手のサイトはサイバーロッカーと呼ばれ、一般的なオンラインストレージとは別に扱われている。Megaupload以外では、RapidShareやHotfile、Fileserve、FileSonic、Mediafireなどなど。具体的には、ほぼワンクリックでファイルをアップロードでき、共有のためのURLを返してくるようなオンラインストレージのことを指す。

ご存じの方も多いとは思うが、上記のサイトには多数の著作権侵害ファイルがアップロードされている。そうした事情もあり、報道等でサイバーロッカーという言葉が用いられる際には、いわゆる割れ厨御用達サイト的な意味合いが付されている。

当然のことながら、コンテンツ産業はサイバーロッカーが著作権侵害を助長していると主張し、あれこれ手段を講じてサイバーロッカーを潰しにかかっている。SOPA/PIPA法案もサイバーロッカーが主要なターゲットになっているだろうし、MPAA対Hotfileの民事訴訟や今回のMegauploadの摘発もそう。

これまでウェブ上の深刻な著作権侵害といえばP2Pファイル共有ということになっていたが、サイバーロッカーが登場し、成長して以降は、こちらのほうが深刻な状況に陥っていたといえる。P2Pファイル共有の場合は、BitTorrentを除いてはそれぞれのP2Pファイル共有ネットワーク内で完結しているし、BitTorrentもクライアントをインストールしている人、またはインストールするためのちょっとした知識を得る意思のある人に限られる。サイバーロッカーのように、ブラウザでアクセスすれば誰にでもダウンロードできるようになれば、潜在的な違法ダウンローダーはインターネットユーザ全体ということになる。また、特定のコンテンツ名でウェブ検索をかけると、サイバーロッカーへのリンクが掲載されたブログやフォーラム、サイバーロッカーサイトの横断検索が可能なFilestubeやFiletramなどの検索結果が上位にヒットするようになっている*1

では、なぜサイバーロッカーがここまで成長したのか。結論から書くと、アフィリエイト・プログラムで金をばら撒き、違法アップローダーを大量に釣り上げていた、というところ。

サイバーロッカーとアフィリエイト・プログラム

サイバーロッカーの主な収入源は、プレミアムユーザの月額使用料である。一部広告が掲載されているところもあるが、大半は自社のプレミアムサービスの宣伝。サイバーロッカーサービスの多くは、無料ユーザからプレミアムユーザへの移行を促すため、無料サービスの質をコントロールしている。たとえば、人間には判読不可能とも言えるCHAPCHAの入力やダウンロード開始までの待ち時間、複数ダウンロード制限や時間ごとのダウンロード回数制限、無料アカウントではダウンロードできないオプションの導入などでストレスを与える。無料で使うことも不可能ではないが、頻繁に使うとなると面倒くさい、そう思わせるのがミソなんだろう。

しかしそれだけでは不十分だ。MegauploadやRapidshare、hotfileなど大手サイバーロッカー以外にも、ここ数年で雨後のタケノコのように数多のサイバーロッカーサービスが登場した。ダウンロードを不便にするだけでは競合に客を持っていかれる。お金に変えるには、ダウンローダーに自社のサイバーロッカーサービスを何度も何度も使ってもらい、その面倒くささを避けるためならお金を支払おうと思わせなければならない。

そこで導入されたのがアフィリエイト・プログラム。簡単にいえば、たくさんダウンロードされるファイルを上げたアップローダーや、プレミアムサービスにユーザを誘導したアフィリエイター*2に報酬を支払うというもの。アップローダーにインセンティブを与えることで、自社のサイバーロッカーサービスに大量のファイルをアップロードさせ、利用者(ダウンローダー)を増やし、継続して何度も使わせる。

アップローダーはダウンロードされればされるほど利益になるので、自分のブログやジャンルのフォーラムにサイバーロッカーへのリンクを貼り付け、ダウンロードを促す。何度も、大量に貼り付けることで、ダウンロード数も増え、プレミアムへの移行も促せる。

ダウンロード数に応じた報酬は、ほとんどのサイバーロッカーで1000ダウンロード毎となっているが、ファイルのサイズやダウンロードされた地域によってレートが異なる。たとえば、サイバーロッカーFilesonicのレートは以下のとおり。

地域による違いは、金払いの良さやコストの低さなどを反映しているというところだろうか。大きなサイズほど報酬レートが高いのは、無料のままでは低速ダウンロードでストレスを感じやすいためにプレミアムへの移行率が高いためだろう。ダウンロード数に応じた報酬以外にも、プレミアム購入毎、もしくはダウンロード数+プレミアム購入の組み合わせ*3などのプログラムが用意されている。この手のリンクを目にしたことのある方はお分かりだろうが、大容量のファイルが一定のサイズで分割されているのはこうした事情からである。

こうしたアフィリエイト・プログラムの導入がサイバーロッカーサービス乱立の元凶となった。サービスの質よりも、高額報酬を約束するサイトの方がアップローダーには魅力的である。新たにそうしたサイトが登場すればアップローダーはそちらに移り、それにともなってダウンローダーも新たなサイトにアクセスする*4

サイバーロッカーサービスの乱立、成長に伴って、サイバーロッカー・アフィリエイターも増えていく。Warez sceneのようにチームでやっているところもあれば、個人でやっているところもある。サイバーロッカー間の競争が激化すれば、アフィリエイター間の競争が激化するのも必然。誰かがアップロードしたファイルをダウンロードし、自分のアカウントでアップロードしなおすということも日常茶飯事となっている。投稿するフォーラムの仁義みたいなものもあるのだろうが、個人のブログや他のフォーラムにリンクを投稿する分には制約はない。これにより、数多のサイバーロッカーサービスにファイルが分散して置かれることになる。もちろん、ダウンロードされるほど利益になるので、アップローダーもパスをかけることはない。

サイバーロッカーにアップロードされるファイル

あえて言わなくても想像つくと思うけども、継続して大容量のファイルをアップロードし続ける、しかも大量にダウンロードされるファイルをアップロードするとなれば、映画やドラマ、音楽、アダルト動画、ゲームソフト、ソフトウェア、コミック/書籍などの違法アップロードがほとんどになってしまう。もちろん、それ以外のファイルがありえないというわけではないが、例外といえるくらいに利用頻度は少ないように思う*5

サイバーロッカーの月額使用料は10ドル前後なので、こうしたファイルが快適に、際限なく手に入るのであれば、月々の支払も安いという人も少なくはないのだろう。また、アダルト動画の場合、クレジットカード払いなどに不安があって利用できないが、サイバーロッカーにPaypal経由で支払えるのなら、という人もいるかもしれない。

コンテンツ産業 vs. サイバーロッカー

Megauploadの強引な摘発には正直驚いたけれども、それ以前からサイバーロッカー潰しは続けられてきており、個人的にも数年のうちにはなくなるだろうなぁと思っていた。サイバーロッカーを規制するためのSOPA/PIPA法案が事実上凍結されたが、昨年2月に起こされたMPAA(全米映画協会) vs. Hotfile裁判は続いており、この結果によって現状のサイバーロッカーの隆盛は終焉を迎えることになるだろうと。

昨年8月末、この裁判の中で、Hotfileはすべてのコンテンツ/ユーザ情報を開示するよう命令をくだされている。一部ではこれがユーザをターゲットにしたアクションだと勘違いされているが、実際にターゲットにされているのはHotfile本体である。違法アップロードを繰り返しているトップアフィリエイターもターゲットになる可能性はないわけではないのだろうが、優先順位から言えばHotfileを潰す方が先になるだろう。

MPAAの狙いは、Hotfileの持つ情報の中からアフィリエイト・プログラムが違法アップロードのインセンティブとなっている証拠を示すことにある。Hotfile側はDMCAに従い、削除要請のあったものについては迅速に対応(ノーティスアンドテイクダウン)している、セーフハーバー条項においてユーザの著作権侵害について免責されると主張し続けるのだろうが、免責されるにあたっては、侵害行為に直接起因する経済的利益を得てないことという要件がある。MPAA側はHotfileがその要件を満たしていない、よって免責されない、という判決を引き出したいのだろう。

Hotfileがユーザの著作権侵害を助長した直接的な証拠があるのかどうかはわからないが、状況的にはHotfile側にかなり分が悪い状況といえる。個人的には、このまま裁判を続けても、MPAAがGrokster判決に並ぶ勝利をおさめるんじゃないかなと。MPAAが勝利を手にすれば、クレジットカード会社やPaypal、広告会社等に圧力をかけ、自主的な対応を求めたり、米当局にドメインを押収するように要請したりするんじゃないのかな。SOPA/PIPAがなくてもね。

Megauploadの摘発とアフィリエイト・プログラム

Hotfileへの情報開示命令を受けてか、昨年11月にWuploadがアフィリエイト・プログラムを終了していたのだが、今回のMegauploadの摘発はさらに大きなインパクトがあったようで、多くのサイバーロッカーがアフィリエイト・プログラムを終了している。

ちょっと確認しただけでも、FileServe、FileSonic、FileJungle、UploadStation、FilePost、GlumboUploads、MegaShare、Uploading、Crocko、4shared、SlingFile、EnterUploadが、Megauploadの摘発以降アフィリエイト・プログラムを終了している。Oronはアフィリエイトアカウントを一時凍結し、侵害ユーザを特定するとのこと。今後はヤバげなファイルの自主的な削除が進められるんだろう。

また、閉鎖や報酬レートを変更したところも。報酬レートの変更は、大手を中心に競合が減ったためにレートを低くしてもアップローダーを釣れると踏んだのか、Megauploadの摘発でプレミアムユーザが減ることを見越してなのかは不明。GIGAZINEにて、FileSonicがファイル共有機能を無効にしたと報じられているが、これもタイミング的にMegauploadの摘発が絡んでいることは間違いない。ビジネスの根幹に関わる機能を、そうやすやすと手放せるわけがない。

アフィリエイト・プログラムの終了は、サイバーロッカー界隈の大きな変化をもたらすことになるだろう。インセンティブを失ったアフィリエイター(アップローダー)が撤退すれば、必然的に違法アップロードは減り、プレミアムユーザがペイする理由が失われる。プレミアムユーザが減り収入源を絶たれれば、サイバーロッカーも終りを迎える。

このシナリオ通りに進むのか、それともほとぼりが覚めた頃に再び動き出すのかはまだわからないけどね。ただ、今回の摘発がターニングポイントの1つにはなるんだろう。

*1:トレントサイトも相変わらずだけれども

*2:アップローダーであることが多いが

*3:それぞれ単独で選択した場合よりも報酬は低レートになる

*4:ダウンロード数を稼ぐならプレミアムユーザが多いサイトが良いのだろうが、プレミアム購入で稼ぐなら新規サービスがいいというところだろうか。手持ちのファイルにもよるけども。

*5:アップロード数だけではなく、ダウンロード数も加味して。とはいえ、インディペンデント・ミュージシャン本人から自身のアルバムのRapidShareリンクを貰ったこともあるので、まともな利用もなくはないと思うよ