BitTorrentユーザの責任:シーダーとリーチャー

権利者側からすれば、最初にネットワーク上にコンテンツを公開した最も責任の重い人物という意味でも、今後の放流を抑止するという意味でも、一次放流者をこそ捕まえたい、とは思っているだろうけれども、なかなかに難しい状況にあるのではないか、ただ、それが難しいとなれば、一次放流者以外のユーザの追求も視野に入れていることも考えられる、というようなことを前回のエントリで書いた。

じゃあ一次放流者以外のBitTorrentユーザではどういったユーザがターゲットになりそうか、という話は詳しく書いていなかったので、今回はそのお話でも。

BitTorrentユーザの責任

P2Pファイル共有では、ユーザはダウンローダーでもあり、アップローダーでもある。WinnyやShare、BitTorrentでは、ユーザはファイルをダウンロードしつつ同時にアップロードしているし、ダウンロード完了後もアップロードを続ける。

自分は何をアップロードしているのか

この部分でのWinnyやShareと、BitTorrentとの大きな違いは、前者が今自分が何をアップロードしているかが可視的ではないが、BitTorrentでは視認できるという点。Winny/Shareでは「今アップロードしている」とということはULの転送速度を見ればわかるが、何をアップロードしているのかまで把握できるようにデザインされていない*1BitTorrentでは「今どのTorrentを稼働させているか(スウォームに接続しているか)」は可視的であり、さらに、そのスウォームごとにダウンロードしているのか、アップロードしているのかが把握できるようになっている。

リーチャーとシーダ

BitTorrentではダウンロードしているユーザをリーチャー(Leech)という。Leechとは「ヒル」の意味で、元々はヒルのようにデータを吸うというフリーライダーを揶揄する言葉として使われてきたのだが、BitTorrentにおけるリーチャーはスウォーム内にてダウンロードを行うと同時にアップロードにも貢献する。リーチャーは他のリーチャーにピース(ファイルの断片)を提供し、互いに欠けているピースを補完し合う。BitTorrentではtit-for-tat(しっぺ返し)戦略に基づいて、より貢献したユーザほど恩恵を受けられるようデザインされている。これはレシオ(ratio: ダウンロードとアップロードの比率、共有比)として表現され、これが高い(つまりアップロード>ダウンロード)ユーザほど報われる(よりダウンロードしやすくなる)。まぁ、気前よく拡散してくれるユーザにピースを集める方が効率は良くなりそうだしねぇ。

ファイルをダウンロードし終えたリーチャーはもはやヒル野郎ではなく、シーダー(seeder: 種を蒔く人, ピースを100%集めている状態)というピースの配布のみを行う役割を担う。これはTorrentを停止/削除(スウォームから切断)すれば、その役割からは開放されるのだが、BitTorrentユーザの仁義としては、レシオが1以上になるまで共有を続けるよう求められている。つまりダウンロードした分以上はアップロードしてくれ、と。招待制メンバーサイトでは、メンバーとして活動する上でこのレシオを2、3以上に保つことを条件にしているところもある。

BitTorrentにおけるシーダーの役割は非常に大きく、シーダーが多ければ多いほどダウンロードしやすくなるし、シーダーが一人以上いなければリーチャーのダウンロードは完了しない*2。一部の会員制サイトでメンバーにシードを強制するのも、ファイルの利用可能性(Availability)を高めるためで、それによりメンバーはダウンロードの効率を上げ、完了を確実にすることができる。

何をアップロードしているのかを知っているシーダ

以上のことから、シーダーは自分が何をアップロードしているのかを容易に知りうる状態にあり、かつ、止めることも可能なシードを続けている、と言うこともできる。

もちろん、ダウンロードを完了したリーチャーは自動的にシーダーになるので、単にシーダーであるからといって、共有の意図があったとは言いにくいところもあるだろう。

ただ、あるジャンルの特定のコンテンツのシードを続けているユーザであれば、監視する側にとって目立つ存在であり、意図を持って共有をしているのだと見なされるかもしれない。権利者にとっては、シードの阻止が違法流通の拡大を抑制することにも繋がる。何としてでも実現したいとは思っているだろう。

「なるほど、じゃあダウンロード終わったら、切断すればいいのか」と考える人もいそうだが、みんながそうすれば、ダウンロード効率は落ちるし、ダウンロード可能性も下がる。ダウンロードが完了しない、完了までにかなりの時間がかかるようになれば、それはそれで1つの成果なんじゃないのかな。

ダウンロード違法化

最後に、前回のエントリでは触れていなかったダウンロード違法化について*3

今年から「ダウンロード違法化」が施行されたことで、音楽、映像の違法配信と知りつつダウンロードする行為が違法行為となった。罰則がついていないのであくまでも民事の問題なのだが、少なくとも違法ダウンローダーを民事で訴えることができるようになった。

とはいえ、現行のプロバイダ制限責任法やユーザの情報開示に関わるガイドラインでは、ダウンローダー(受信者)の情報開示については明確化されておらず、今のところはダウンローダーの個人情報を開示させるのは難しいように思える。

ただ、BitTorrentシーダーはダウンロードではなく、アップロードの役割のみを担うユーザであり、積極的にその役割を担っている、そしてその自覚があるであろうユーザに対しては、わざわざ違法ダウンロードの責任を問わずとも違法アップロードの責任を問える、とACCSなどは考えるかもしれない。

刑事になるのか民事になるのかはわからないが、民事で違法アップローダー(発信者)の責任を問うのであれば、現行のプロ責法や発信者情報開示に関わるガイドラインは存在しており、継続的なシーダーに責任ありと判断されれば、そのユーザの情報が開示される可能性もありうる。

ダウンロード違法化については、個人的には、ユーザ個人の責任を追及するための手段ではなく*4、ダウンロードなら大丈夫だろうという風潮に対する牽制、次の規制を引き出す口実なんだと思っている。違法にアップロードされたコンテンツをダウンロードされると損害を被る、だから対処を!と叫ぶよりは、明確な違法行為なのだから違法ダウンローダーへの厳しい対処が必要だ!と主張した方が受け入れられやすいよね。たとえば、違法ダウンローダーを対象に含むスリーストライクシステムの導入、とかね。違法行為ではないけど対処してくれ、よりは、違法行為なのだから厳しい対処をしても良いだろう、の方が話は通りやすいんではないかな。

*1:ツールなどを使用すればわかるようだが

*2:もちろん、すべてのリーチャーからかき集めるとファイルの完成に必要なすべてのピースが揃うという場合もないわけではない

*3:ごめんなさい、忘れてました。

*4:違法ダウンロードに対する民事での責任追及は、コストばかりかかる割に取り返せる額は少額。海外でよく見られているように、大量の警告を乱発して和解金をせしめるというやり方をとらない限り、啓蒙以外の価値を見いだせないというところじゃないだろうか。