Brad Sucks:インディペンデントミュージシャンのあたらしいかたち
私はBrad Sucksというアーティスト
の大ファンなのだけれど、それは彼の音楽が素晴らしいという一方で、彼の音楽、ファンとの向き合い方に共感を覚えているというところにも根ざしているのだろう。
先日は彼の音楽を紹介したり、ccMixterで最もリミックスされたアーティストの1人としてリミックスについて語ったインタビューを紹介したので、今回は彼の音楽との向き合い方について書いてみようと思う。
以下はBrad Sucks公式ページのAbout Brad Sucksを翻訳したものである。
Brad Sucksって?
僕の名前はBrad、Brad Sucksというのは僕のワンマンバンドの名前。僕一人で楽曲の作曲、レコーディング、プロデュースをしていて、それをWebサイトに公開している。みんなにこれをダウンロードしてもらって、できれば共有して楽しんでほしいと思っている。アルバムもいくつか売ってるよ。
2001年に、僕は自分の音楽を広めるためにインターネットを使い始めたんだけど(ブログ、MP3、P2P)、僕に関して言えば、著作権侵害とかは気にしなくていいからね。リミックスしたい人のために僕の楽曲の音源も提供してるくらいだし。僕は、音楽を広めることが至高の目標とされるべきって考えてきたんだけど、今まではそれがすごくうまくいってる。
オンラインで無料で僕の音楽を提供してたとしても、僕の曲はテレビで使うためにライセンスされたり、商業ラジオ、キャンパスラジオでかけてもらったりしていて、そういったライセンスとか、僕のファーストCD"I Don't Know What I'm Doing"のセールスから、十分なお金を得ている。
それと僕はオープンソースコミュニティにも参加している。人気のインスタントメッセージクライアントのPidginのデフォルトサウンドをデザインしたり、ミュージシャンのためのオープンソースパッケージBrad Sucks Digital Download StoreとGimme Some Moneyもリリースしている。Brad Sucksの音楽はどこで買えるの?
僕のアルバムI Don't Know What I'm Doingは、僕から直接10ドルで購入できるよ(詳しくはこちらをクリック)。他にも有名なデジタルダウンロードサービスiTunes、Magnatuneとか、オンラインレコードストアのCDBaby、Amazonでも購入できる。
無料で手に入るのに、何で買うの?
うーん、実は僕もわからないんだけど、そうしてくれる人がいて、僕もそうしてくれると嬉しいってとこかな。自分の手元にCDを置いておきたいのかもしれないし、単にアーティストをサポートしたいって思ってくれているのかもしれないし、完全に同情してくれているからなのかもしれない。
僕がオンラインで自分の音楽を公開しているのは、みんなにそれを聞いて欲しいから。もちろん、音楽を作って生計を立てていきたいとは思っているけど、最悪のシナリオ−たくさん聞かれているアーティストなのにお金を稼げない−になったとしても、僕はそれに耐えていける。ギタータブってもらえる?
いくつかの曲のはこちらのタブページにて。
プロジェクトで楽曲を使わせてもらいたいんだけど?
どうぞどうぞ。僕の音楽を使ってどんなものを作ってくれるのか是非とも見てみたいよ。
レビュー用のコピーをもらえる?
もちろん、連絡をくれれば1つ送るよ。
最悪のシナリオを迎えたとしても、それでもみんなに自分の音楽を聞いて欲しい、そうした彼の姿勢がたまらなく好きなだよなぁ。もちろん、彼はインディペンデントとしては一定の成功を収めているし、それ故にこうした考えに至っているともいえるのだが、ccMixterへの早期の参加やCrative Commonsライセンスの採用などを見ると、旧来のビジネスから見ればナイーブな哲学を持っているともいえる。しかし、そのナイーブな哲学こそが、彼に一定の成功をもたらす不可欠なピースであったように思える。レーベルとサインすることなく、独立独歩音楽を続けていくためには、まず音楽を聞いてもらう、それもより多くの人たちに、そして気に入ってもらう、それこそが「まず最初に」クリアしなければならないハードルであるのだろう。
興味深いところとしては、たとえ無料で*1提供していても、ライセンス料、CDの売り上げから十分な収入が得られているということ。もちろん、十分、というのは相対的なものなのだろうけれど、少なくとも生きていけるだけの収入は得ているようだ。
さらにいえば、ドネーションやライブからの収入もあるだろう。たとえば、彼のサイトには右のようなウィジェットが貼り付けられているのだが、これは『自分の住んでいる街にライブにきて欲しい』をアーティストにアピールするサービス。アーティストとしても、これまでのようなツアーコースをまわって、観客10人のライブもこなさなきゃいけない、なんてことはなくて、ある程度の客足を見込んだ上でライブを行う都市を決めることができる。もちろん、来て!といった人が必ず来るというわけではないが、全くわからないままにライブを決めるよりは、ツアーコースは決めやすいだろう。
私は、Brad SucksやJonathan Coultonのような、以前では考えられなかった「小さな活動と中規模な展開」をインディペンデントで行えること、それがスタンダードになるとは思わないけれど、1つの形として根付いてくれることを願っている。もちろん、メジャー同様こちらも茨の道ではあるし、インディペンデントでいることで音楽活動以外のことにも精を出さなければならなくなる。こうしたアーティストたちは、ファンとの近さによって魅力を増している部分もある。それゆえに、ファンとの交流に日々のリソースを割かねばならない。Brad Sukcsは、時にそうしたやりとりがノイローゼを引き起こしそうになったともいっているし、Jonathan CoultonらインディペンデントミュージシャンをフィーチャーしたNY Timesの「Sex, Drugs and Updating Your Blog」という記事でもファンとのやりとりに苦心するアーティストたちが描かれている*2。
良い面、悪い面、両方存在するのだろうけれど、それでも自らの哲学に従い、ファンと向き合い、音楽を続けているアーティストたちを応援したいなぁと思う。
Brad Sucks's Links
余談
文中で少し紹介したJonathan Coultonもおすすめのアーティストなので是非聞いて欲しいなぁ。自身が作った楽曲はほとんど(少なくとも彼のサイトで公開/販売されている楽曲は)Creative Commons by-ncにてライセンスされている*3。
YouTubeに彼の曲を使ってファン作ったPVが投稿されているので、そちらを紹介しておきます。
Jonathan Coulton "Code Monkey" (Video By Jennifer Barclay, Tom Weiser)
*1:Creative Commonsライセンスにて
*2:NY Timesのこの記事はポジティブな面、ネガティブな面両方をとらえた両記事なので、アーティストとファンとのよりダイレクトな関係を望ましいと思っている方は是非とも読んでいただきたい。