デジタルとフィジカル:韓国と違法ファイル共有のこれまで

違法ダウンロード爆増でDVD売れず、ついに韓国からハリウッドの全映画会社が撤退 - GIGAZINE
って記事を読んで。
なんか「海賊行為だけが原因で」というような印象をGigazineの記事からはうけてしまう。ただ、個人的にはそこまで単純な話ではないと以前から思っていたので、ちょっと引っかかりを覚える。もちろん、韓国におけるオンライン海賊行為が大きな問題であることは理解しているし、それがフィジカルセールスに及ぼす影響も大きいとは思っている。むしろそうした影響は他の国より大きいとすら思っている。
しかし、単純に「韓国の人々が海賊行為ばかりしているせいだ」とは思ってはいない。海賊行為の問題はどこの国でも見られるし、どこの国でもデジタルパイラシーの問題は深刻だと言われている。じゃあ、なぜハリウッドが撤退するような自体にまで至っているのか、というと、おそらく、韓国のコンテンツ市場がよりオンラインにシフトしているためだと思っている*1
しばしば、デジタルパイラシーはそこまで大騒ぎする問題ではない、といわれる。私も今はそう思っている。ただ、それが言えるのは、海賊版が正規品と比較して、より劣っている場合に限られる。ユーザがフィジカルな製品に価値を見いだしているのであれば、おそらく海賊版は正規品に勝つことはできないだろう。しかし、ユーザがデジタルデータに価値を見いだし、フィジカルな製品をそれほど重視しなくなった場合、海賊版は正規品に「価値」の面で勝ることができる。海賊版コピーには正規コピーにかけられているような制限はなく、さらに品質も多種多様である。そしてタダで、簡単に手に入る。
コンテンツ市場がよりオンラインにシフトしていくことは、ユーザの価値観すら変容させるのかもしれない。もちろん、ユーザの価値観が変容したからこそ、そのシフトが促されるとも考えられる。いずれにしても、市場のオンラインへのシフトが海賊行為の問題を増幅するのではないかと、私は思っている。現代のパイラシーの最前線はオンラインにあるのだから。そして、それが韓国で起こっていることなのかなと。

とはいえ…

それほど韓国事情について詳しいわけではないんだけどね…。偉そうに語ってごめんなさい。ただ、前々から興味はあって、時間を見つけては調べたり、気になった記事はメモしたりしてるので、その中からピックアップしたものを以下にご紹介(引用箇所の強調は私が加えたものです)。他にも、これ押さえておいた方がいいよ、というような記事、情報などありましたら、教えてくださいまし。

2003年

2003年韓国ネット関連10大ニュース
http://allabout.co.jp/career/netkorea/closeup/CU20031221A/

韓国国内では外国製のP2PプログラムのedonkeyWinMX、Kazzaなどの他に、国産のオンファイル(onfile.co.kr)、アンホルダー(enyou.com)、ファイルグリ(freechal.com) V-TV(v-tv.co.kr)、ゲムプル(gample.net)等のP2Pサービスサイトやトトディスク(totodisk.com)、ホルダープラス(folderplus.com)等のサイバーディスクサイトなどが多数存在している状態でこれらサイトの利用が盛んです。不法コピー率も米国のBSAの発表値によれば2002年は50%を越えたと報告されています。

2004年

2004/08/27

【音楽コラム】韓国音楽市場の厳しい現実
http://www.chosunonline.com/article/20040827000062

1990年台のダンスブームは、音楽の本質を奪っただけではなかった。この頃から“ビルボード世代”が音楽を聴かなくなり始めた。“ビルボード世代”とは 80年代、毎日のように深夜ラジオに耳を傾け、頭の中には受験生のようにビルボードの順位がインプットされていた世代のことをいう。
この“ビルボード世代”がアルバムを買わないようになったことが、韓国アルバム市場停滞の最大の原因といえる。

2005年

2005/01/12

ファイル交換プログラム「ソリバダ」運営者、抗訴審で無罪
http://www.chosunonline.com/article/20050112000023

裁判部は「ソりバダ」サイトを利用し、P2P方式でファイルを共有した正犯たちは音楽ファイル著作権者の複製権と著作隣接権を侵害したと認められるが、「ソリバダ」運営者である被告らにこれらの著作権侵害行為を防止する積極的な義務があるとは言えない」とした。

ただ結局、このしばらくあとでサービスの停止命令が下されていたと思います。(追記:「ソリバダ」サービス全面中断…著作隣接権侵害で | 中央日報(2007.10.12)

2005/08/29

P2Pイードンキー』が『ビットトレント』抜き世界最大に
http://wiredvision.jp/archives/200509/2005090205.html

アジアでも韓国は例外で、イードンキーがP2Pトラフィックの92%を占めたという。

2005/不明

デジタルメディアを通じた韓日著作権ビジネスの新しい市場(デジタルメディアを含む、変化する音楽環境の中での 韓日著作権ビジネスについて)
http://www.kr.emb-japan.go.jp/cult/sympo_japan%5B3%5D.doc

2006年

2006/03/14

PRUNAの音楽ファイル共有サービスが禁止に
http://www.chosunonline.com/article/20060314000047

裁判所は判決文で、「ネットユーザーが許可なくMP3ファイルをパソコンにダウンロードして共有するのは、著作権者の複製権や転送権などを侵害するものであり、インターネットサイトのプルナも違法MP3ファイル交換のための場所として機能している」述べた。

こうした一連のP2Pファイル共有サービスへの規制が強まる中、海賊行為の主な舞台はウェブハードと呼ばれるオンラインストレージに移行していったようです。もちろん、P2Pファイル共有の利用も盛んなままだけど。

2006/06/04

<韓国デジタル音楽市場の現況と活性化のための条件>
http://www.promic.net/document/pdf/200606_04.pdf

2006/09/27

韓国でのiTunes人気は? - 大規模音楽ファンド結成でホットな韓国音楽市場
http://journal.mycom.co.jp/news/2006/09/27/382.html

当初は著作権問題を解決できていない無料サイトやP2Pサイトが主流で、これが問題となっていたが、2004年頃から大手キャリアを中心に音楽配信サービスが開始されると、一定料金を支払って音楽を聴くという認識が定着してきた。
インターネット市場調査会社のRankey.comの調査によると、2005年9月から2006年8月までの期間、韓国でもっとも多くのユニークユーザーを確保しているのは「Bugs」であることが明らかとなった。このBugs、以前は無料で音楽を配信するなどの問題があったものの、楽曲の豊富さから多くのファンを確保し、その根強い人気は有料化後も続いているようだ。

2007年

2007/01

韓国における著作権侵害対策ハンドブック (文化庁
http://www.bunka.go.jp/1tyosaku/kaizokuban/pdf/korea_singai_handbook.pdf

オンライン侵害事例では、ファイル共有サイト(P2P サイト)やウェブハードサイト【11】での侵害事例が中心となっていますが、調査の方法としては、まず代表的なP2P サイトやウェブハードサイトを監視し、不法複製ファイルが掲示されていないか確認する方法が効率的です。現在、韓国で大きな問題となっている代表的なサイトとして、P2P サイトでは、ソリバダ(http://www.soribada.com/)、プルナ(http://www.pruna.com/)、ファイルグリ(http://www.fileguri.com/)が挙げられ、ウェブハードサイトには、ウェブハードドットコム(http://www.webhard.com/)、トトディスク(http://www.totodisk.com/)、クラブボックス(http://www.clubbox.co.kr/) などが挙げられます。このような監視対象を具体的に特定し、検索するコンテンツ名を教示するなど、その調査方法を具体的に指示しておく必要があります。

2007/05/22

韓国人のネットライフと、通勤時間の伸びが生み出したトレンドとは?
http://www.rbbtoday.com/news/20070522/41990.html

無断でダウンロードし、ユーザーが字幕を付けて見ていた動画がP2Pで人気となり、それを知ったCATVが公式に放映し、後に地上波でも放映されるなど、映像産業にもPMPの普及がインパクトを与えた。

2007/06/13

韓国におけるコンテンツ市場の実態(輸出促進調査シリーズ) 2007年3月
http://www.jetro.go.jp/world/asia/kr/reports/05001428
このレポートの中では、韓国のビデオ市場後退の理由として、衛星・CATVによる多彩な映画専門チャンネルの登場と、主要なターゲットである若者層が違法ファイル共有(ウェブハード等)からコンテンツを入手しているためであるとしている。また、DVD市場の低迷は、DVDプレーヤー普及率の低迷や、DVDタイトル販売率の低迷が、大きな原因であるとしている*2

2007/06/26

著作権団体がP2Pに楽曲安売り?・韓国の音楽業界に難問
http://it.nikkei.co.jp/internet/news/index.aspx?n=MMIT13000026062007

韓国では2004年にすでにデジタル音楽市場規模がアルバム販売市場規模を上回っている。韓国ソフトウェア振興院の調査では、2007年のアルバム販売市場規模は960億ウォン、デジタル音楽市場規模は8%成長の4000億ウォンで、アルバム市場の4倍以上になる見込みだ。
 1990年代から続くP2Pでの無断音楽ファイル取引問題や中小音楽サイトでの著作権違反を乗り越え、デジタル音楽配信はストリーミングが月3000ウォン(約400円)、ダウンロードが1曲500ウォン、携帯電話での着うたやカラリングが1曲1200ウォンという相場が固まり、2005年あたりから有料化が定着するようになった。

2007/07/19

韓国音楽市場、さらに不況悪化でCD販売量激減
http://www.chosunonline.com/article/20070719000066

韓国音楽産業協会が発表した「2007年上半期歌謡曲音盤販売量」の集計によると、今年発売されたCDのうち、10万枚以上が売れたのは SG WANNA BEの4thアルバム(14万6789枚)と Epik Highの4thアルバム(11万4505枚)しかないことが分かった。

2007/12/

韓国でも人気の任天堂--最大の敵は
http://japan.gamespot.com/common/print_story.htm?element_id=20362295

韓国のデジタル機器の販売方式には、正規ルートを通さずに入ってきたものというカテゴリが確立されている。メニューが韓国語化されていなかったり、電源の形が輸入してきた国のままであるなど不便な点はあるものの、正規品よりも安い。メーカー公認の店舗で修理してもらえないが、購入した店舗やそこと契約した修理屋などが請け負ってくれる。一方のソフトは複製されたものが安く販売され、それがウェブストレージやP2Pなどを通して、より多くの人同士で共有されている。

2008年

2008/01/23

世界に広がるファイル交換ソフト - WinnyやShareは東アジアで人気

http://www.security-next.com/007474.html
LimeWireWinny、Shareユーザはそれほど多くはないようです。eDonkey、国産ファイル共有、ウェブハードが強いので、まぁ妥当なところではありますが。

2008/4/15

映画音楽界、「不法P2P-ウェブハード閉鎖が生き残りの方法」
http://travel.innolife.net/innoreport/list.php?ac_id=1&ai_id=3254
この記事は短いながらも、とても面白いです。強硬な規制を求める音楽・映画産業と、慎重な規制を求める学者のコメントのコントラストが興味深い。

2008/05/04

韓国ネット業界、わいせつ物対策で大弱り(下)
http://www.chosunonline.com/article/20080504000007

芝蘭之交ソフトの呉治泳(オ・チヨン)社長は、「300件余りのポータルサイトP2Pサイトをリアルタイムでモニタリングし、わいせつ物遮断リストを作っているが、インターネットには絶えず新しいわいせつ物がアップされている。消費者が満足できる自動わいせつ物遮断プログラム開発を急ぎたい」と語った。

直接海賊行為に関わる話ではないのですが、なかなか面白いお話。

2008/06/19

ナウコム社長拘束事態から見た著作権に対する2つの観点
http://www.labornetjp.org/worldnews/korea/issue/media/1213991878309Staff

2000年にソリバダをめぐり、デジタル環境における著作権が問題になった後、 オンラインでの著作権を保護する法制度的装置は継続的に強化されてきた。特 に最近では、著作物流通の責任のあるサービス提供者に著作権保護の責任を強 化したり、行政や司法制度による著作権保護の「執行」を強化する傾向を見せ ている。2006年にはすでにP2P、ウェブハードなど、特殊な類型のオンライン サービス提供者にフィルタリングなどの技術的な措置を取らせる著作権法改正 案が通過され、5月末の臨時国会では文化部の公務員に特別司法警察権を付与す る方案が通過、本格的に施行される9月からは著作権摘発がさらに強化される予 定だ。韓米FTA協定の知的財産権領域では、米国の主な要求事項である「効果的 かつ強力な執行規定」がほとんど受け入れられた。
このような現在の傾向は、著作権保護を重大な公益だと前提し、そのために第 三者ISPと公的機関も絶対的に服務しなければならないのと同じ様相だ。しか し著作権者の利益は一つの私益でしかなく、社会文化の発展という公益のため には、著作物の利用との均衡を図らなければならないという点で、現在の傾向 は明らかに偏向している。

こちらはオピニオンと言ったところでしょうか。比較的、私の意見に近いです。ここまで強いものではありませんが…。

2008/08/19

「3アウトでサイト封鎖」韓国に吹き荒れるネット規制旋風
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000019082008

改正法案では、さらに、繰り返し違法ファイルを転送・登録する利用者に対する利用停止及び解約、違法ファイルを掲載するサービス提供者(P2P、ストレージサービス、ポータルサイトなど)のアクセス遮断などの罰則が盛り込まれた。ユーザーが著作権侵害にあたるファイルの転送や流通の中止命令に従わない場合、行政機関はユーザーのID停止または解約をサービス提供者に命じ、これに従わない場合は罰金が科される。
(中略)
改正案では違法コピーファイルの掲載により罰金を3回科されたサイトに対しては、審議を経てサイトを強制的に閉鎖できるようにするという。サイト内の掲示物の70%以上が違法コピーファイルである場合は、直ちにサイトを閉鎖できる。

趙 章恩(チョウ・チャンウン)さんのシリーズ。ユーザおよびサービス提供者に対するスリーストライク法といったところでしょうか。

2008/09/04

ソニー・ピクチャーズ韓国DVD業界から撤退
http://www.varietyjapan.com/news/business/2k1u7d00000c9ryp.html

韓国映画振興委員会(KOFIC)によれば、海賊版の影響で同国内での今年のDVD市場の売り上げ予想は、2002年のわずか半分の2億8900万ドルになる見込みだという。 

2008/09/11

知財》9割がオンラインで、知財侵害が深刻化[経済]
http://news.nna.jp/free/news/20080911krw002A.html

著作権保護センターによると、2006年の不法コンテンツの流通量は406億2,000万件に上っており、全体の94%はオンラインで流通していることがわかった。オンラインで流通している81%がピアツーピア(P2P)方式の音楽サイトや、ウェブハード(サイバーフォルダー)だという。

2008/09/18

隣国で違法コピーと戦う新組織が誕生
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20080918-00000005-isd-game

著作権特別司法警察」はゲームの違法コピーなどに対応する組織。インターネットで流通する違法コピーに対して追跡を強化するほか、コピー品を追うためのシステムも構築するとのこと。
文化部所属でありながら警察権を持っており幅広い捜査が可能な「著作権特別司法警察」は、これまでの文化部が捜査権を持たず差し押さえしかできなかったという欠点を克服したとも言える存在。

2008/10/10

違法ダウンロード:ストレージ・サービス業者も捜索
http://www.chosunonline.com/article/20081010000050

ソウル中央地検刑事6部は、インターネットのポータルサイト「ネイバー」を運営するNHNと、「ダウム」を運営するダウム・コミュニケーションに対し家宅捜索を行ったのに続き、映画やコンピューターソフトの違法ダウンロードをほう助した疑いで、ソウル市江南区のO社などオンライン・ストレージ・サービス業者6社に対し、8日に家宅捜索を行った、と発表した。

2008/10/30

地上波を全国へ再送信 いよいよ始まる韓国IPTVの全貌
http://it.nikkei.co.jp/internet/column/korea.aspx?n=MMIT13000030102008

2008/11/07

著作権侵害をほう助、ネイバーとダウムを立件へ
http://www.chosunonline.com/article/20081104000056

ソウル中央地検は3日、インターネットの大手ポータルサイトのネイバーとダウムがネット上で不法に音楽データが出回るのを防がず、著作権侵害行為をほう助したとの結論を下し、両サイトの運営会社を立件する方針を固めた。

2008/11/10

ワーナーブラザーズ韓国で一部事業撤収
http://contents.innolife.net/news/list.php?ac_id=6&ai_id=91495

ワーナーホームビデオコリアは、2006年MBCとデジタル事業での関連戦略協力のためMOUを締結し、2007年iMBCとダウンロード事業を始めるなど、付加版権市場の活路を多角的に模索した。しかし、深刻な不法ダウンロードによる収益減少で、韓国内事業を撤収することに決定した。

音楽の場合、正規流通だけを見てもフィジカルセールスはデジタル配信セールスを下回っており、フィジカル製品の販売を維持するメリットが薄いのかもしれない。こうした部分が映画等映像コンテンツにも波及しているのかどうかは定かではないが、世界の他の地域に比べ、デジタル配信への移行が進んでいるようにも思える。そういった意味では、海賊版の問題も大きいというのは認められるが、背景にある事情はそれだけではないようにも思える。
その辺りは、ワーナーホームビデオコリア、イ・ヒョンリョル代表の発言にも見て取れる。

「今まで良質なビデオとDVDを最も手軽に、また最も安い価格で楽しめるように前防衛的な努力をしてきた。しかし変化に適応し、先行しなければ淘汰される。消費者の購買形態は、優れたデジタルインフラを基盤に大きく変化した。今後も良質のコンテンツが合法的に消費される、健全な市場を作るために努力する」

海賊行為への懸念を暗に示しているが、それほど直接的な言及でないのは、「優れたデジタルインフラを基盤に」した合法的なコンテンツ提供に活路を見いだしているからなのだろう。「現在1人で運営されていたデジタル配給事業部は5人の組織に補強され、未来の主力事業であるデジタル流通業に集中する」というのも、その一環と思われる。

2008/11/10

Korea Close On “Graduated Response” Bill Aimed At Copyright Infringers
http://www.ip-watch.org/weblog/index.php?p=1311
韓国版スリーストライク法案が今月にも提出される、とか。

*1:もちろん、絶対的な市場規模が小さいというのも理由の1つなのだろうけれど

*2:DVDプレーヤーの普及率自体は記述されていないので、ちょっと注意が必要かも。実際どれくらいなんでしょね。あと、DVDセールス自体が激減しているので、プレイヤーの普及率が低いから売れなくなった、とは言い難い気もする。