デジタル配信への移行で我々が失うもの

過去の作品を入手したいと思っても、なかなか入手できないという問題は、我々にずっとついて回ってきた。採算がとれる程度の需要が見込めずに市場に出回らないもの、権利関係のごたごたによって死蔵されてしまっているもの、さまざまな理由で多くの作品が日の目を見ずにいる。

インターネットが登場したことで、著作権の切れたものに関しては、青空文庫のように、採算という制約から逃れ、有志の手によって積極的にアーカイブが進められているし、著作権が残っているものに関しても、十分とは言えないが、オンライン配信により格段に入手が容易になったものもある。

ただ、オンライン配信が作品の入手可能性にポジティブな影響をのみ与えているとも思えない。もちろん、ポジティブな影響がないわけではなく、それは十分にあると思っているが、長期的に見た場合、フィジカルメディアからデジタル配信への移行が進むことでネガティブな影響も生じうる。

流通が停止しても中古で入手できるってのと、正規配信が停止したら合法的な入手方法が全くなくなるってのとは、本当に大きく違いますよね。

Twitter / heatwave_p2p

簡単に言えば、こういうこと。これまで、CDであれDVDであれ書籍であれゲームであれ、モノとして販売された著作物は他人に譲渡することが可能であった。CD/DVD/書籍/ゲームを、中古レコード/ゲーム屋/オークションサイトで販売したり、友達にあげたりしても、法に反することはない。例え製造が停止した作品でも、そうした中古品によって合法的に入手することが可能であった。

では、オンライン配信で入手した著作物はどうだろうか?例え合法的にダウンロードしたコンテンツであっても、譲渡することはできないだろう。DRM利用規約がそれを禁じているだけではなく、そもそも合法的に譲渡する手段が存在しないのではないだろうか。

そう考えると、中古市場流通はある種、我々社会のアーカイブとしての機能を担っていたとも考えられる。もちろん、我々自身がモノとして保持していることも。しかし、メディアシフトが進行した時代において、その機能は維持できるのだろうか。

もちろん、現状ではフィジカルメディアによる流通が支配的であり、多くのものがフィジカルメディアと平行してオンライン配信されているので、そうした問題が顕在化しているというわけではないし、顕在化するまでにどれだけの時間を要するかもわからない。ただ、その爆弾を抱えつつあることは間違いないだろう。

なんてことを、WiiDLC*1としてのみ販売されているゲームで遊んでいて思った。果たしてこのゲーム、10年後の人々も、20年後の人々も、私と同じように合法的に入手して楽しむことができるのだろうか、と。もちろん、10年後も、20年後も正規に配信されていれば、合法的に入手することはできるだろう。でも、これからそうしたコンテンツが増えていく中、それが加算的に蓄積されていくとも思いがたい。

また、これは大規模な商業流通だけの問題ではなく、ネット上で提供されている多くの作品に関わる問題でもある。Creative Commonsなどのシェア可能なライセンスを付与しているのでもない限り、正規の提供が停止すれば合法的に入手、閲覧する経路は失われることになる。例え私が合法的にそれを入手していたとしても、あなたにあげることはできないのだ。