BandCampはJamendoのオルタナティブになるか?
Jamendoが大変だ、という先月のエントリと先日のエントリを見た読者の方から、Jamendoのオルタナティブってありませんか?とのメールをいただいた。どうも自身の音源をアップロードしたいのだが、Jamendoが潰れそうなら別のサイトにアップロードした方がよいのではないか、とのこと。んー、個人的には、JamendoにCreative Commonsライセンスで*1アップロードしようという心づもりがあるのなら、どこのサイトにでも手当たり次第にアップロードしてみてはどうかを思うのだが…。という感じのことを返信しておいた。
今回のメール以外でも、たまにJamendoのオルタナティブは?的なメールをいただくのだが、個人的には「(Jamendoサポーターの)私に聞かないでよ…」であり、その口からBandcampがいいよなどと言わせようとは、悪辣卑劣もいいところである*2。
とはいえ、Jamendoが潰れる/潰れないにしても、一極集中というのはあまり好ましい状態とは言えないのも事実。移行期ゆえに、一極集中によって流れを生み出すことが必要になるとは思うが*3、Jamendoがそれに成功するかどうかはわからないし、成功したとしてもJamendoだけが成功して他が全然ダメというのでは目も当てられない。
で、Bandcamp
Bandcampは、昨年くらいからアーティストが利用しているのをよく目にするようになった音楽配信/ストリーミングサイトで、Jamendoにアップロードしたいんだけど、Creative Commonsライセンス必須なのはちょっと…、という方にお勧めしている。まぁ、Jamendoのオルタナティブになるかというと、そうはならないだろうとは思うが、別のオプションとして考えるなら非常にアリだろう、ということで。
具体的にどんなサイトかっていうのは、サイトのディスクリプションを読んでもらうのが一番てっとり早いかも。
BandCampはただの音楽配信サイトではない。むしろ、あなたのサイトにパワーを与えるサイトです。アダルトチャット広告も一切なし。あなたのファンは、あなたのデザイン、あなたの音楽、あなたのサイトのURLに触れるのです。全ての所有権はあなたの手元に、私たちは技術的側面からあなたをバックアップするだけです。
チョイス。あなたの楽曲をmp3、AAC、FLAC、Oggなど、あなたの熱心なファンが求める全てのフォーマットで提供。音楽の無料配信、あなた自身による価格設定、リスナーによる価格選択できます。全てはあなた次第。
バイラル・ディストリビューション。あなたのファンがあなたの音楽を友達同士で共有するための最高に容易なツールを提供しています。しかも、あなたのサイトにトラフィックを向けるようなやり方で。また、あなたの音楽がどのように広がっているのかについても完全に明らかにします。
猿でもわかるアクセス解析。ファンがどこからきているか、何を聞いているか、どの曲を長く聴いていて、どの曲をスキップしたかについての統計を提供。それも実にわかりやすく。
あなたの5番目の(とびきりナードな)ビートルとして。あなたの全カタログの高速かつ安定したストリーミング、ダウンロードを提供。楽曲にはiTunes登録時に必要になるアートワーク、タイトル、その他全てのメタデータを付与。あなたのサイトがGoolgeトップランクをゲットするための秘密のおなじまいも。もちろん、私たちが提供するのはあなた自身の手でできるものばかりかもしれません。でも、あなたが本当に情熱を傾けたいのは音楽のはず。なら、私たちを、ナードな作業が得意な、あなたの影のバンドメイトとして雇ってはくれませんか?タンバリンを叩かせろなんて言いだしやしませんから。
Bandcamp
もっと要点を整理してまとめると…
権利はずっとあなたのもの
BandCampにアップロードしても、音楽配信/ストリーミングの提供は権利を持つアーティスト次第、ということ。いつでも配信を打ち切ることができる。
価格設定はお気に召すまま
無料ダウンロードを提供することもできるし、価格を設定して有料配信もできる。また、リスナーが決めた任意の価格で購入させることもできる。さらに、低音質は無料、高音質は有料ということも可能*6。ダウンロード販売だけじゃなく、CDやビニールの販売もできるみたい。
それと、全てをダウンロード可能にする必要もなくて、一部の曲はダウンロード可、残りの曲はストリーミングのみ、ということもできる。
ライセンスもカスタマイズ可
All Rights Reservedでの音楽配信/ストリーミングもできるし、Creative Commonsライセンスをつけることもできる。Jamendoとの一番大きな違いはここかな。
あなた好みのページにカスタマイズ可
本当に好きなようにとはいかないのだろうが、MySpace程度にはカスタマイズできる。トップ絵、背景、フォントの色、アートワークを配置できるとか。アートワークの代わりにビジュアライザを載せることもできる。
バイラルを促進するシェアリンク
アルバムページ上のShareボタンを押すと、エンベット可能なWebプレーヤーのコードが取得できる。これを自分のサイトに貼付けることもできるし、ファンに宣伝してもらうこともできる。プレーヤーはシンプルかつ機能的で、どこに貼付けるにしても邪魔しないデザインになっている。
こんなところかな。
Jamendoのオルタナティブにはならない
これはたぶん、リスナーとしての自分の経験が全く違うからそう思うんだろうけど、JamendoとBandCampが最も異なるのは、Jamendoがソーシャルな音楽プラットフォームを目指しているのに対して、BandCampはソーシャルメディアを活用するアーティストをサポートするツールを目指しているという点。まぁ、あくまでも体験に基づいてそう考えたってことなんだけどね。
Jamedoはサイト内でのリスナーの流動を促進するように作られていて、リスナーはJamendoの中でさまざまなアーティストに出会い、ファンになる。また、サイト内でのリスナーの活動は、別のリスナーの音楽ディスカバリーを促進したり、アーティストにフィードバックしたりといったように作用する。一方のBandCampはサイト内でのリスナーの流動はほとんど抑えられていて、タグやリストから他のバンドを探したりもできるが、リスナーが効果的に出会いを求められるような作りにはなっていない。
JamendoにはBandCampにない魅力がある。音楽ディスカバリーを楽しむリスナーとしては、BandCampはJamendoの代わりにはならない。以前に「Jamendoの歩き方、または音楽との出会い方」というエントリの中で、Jamendoでの音楽とのさまざまな出会い方を紹介したが、これもJamendoがリスナーとアーティストとの接点を可能な限り作り出そうと努力していることの表れでもある。
BandCampにはJamendoにない魅力がある
こうしたJamendoとBandCampの差異は両者の方向性の違いを反映しているのだろう。Jamendoが出会いの場を提供するのであれば、BandCampはデートの場を提供する、というところかもしれない。あるアーティストに興味を持ち、そこからBandCampのページに到達することを想定しているのであれば、BandCampのスタンスは、そのアーティストの曲を聴いてもらう、無料であれ有料であれ、その曲をダウンロードしてもらうことに特化する作りであって良い。かくいう私も、Jamendoで見つけたアーティストを調べていった結果、BandCampによく出くわすようになったわけで、まずファンとの出会いがあったことが前提で、その後で効いてくるサービスだと言える。
では、そうした出会いの場を提供しないBandCampはJamendoより劣るかというとそうではない。BandCampにはJamendoにない魅力がある。アーティストにとっては、自分に興味を持ったリスナーに自分の、自分の作品のすばらしさを存分に見せつけるための場としても、配信プラットフォームとしても同時に機能する。
ページ上には、トップ画像、アルバムタイトル、アーティスト名(自分のサイトへのリンクを張れる)、楽曲リスト、プレイヤー、シェアリンク、ディスコグラフィー(そのアーティストの他の作品)、ディスクリプションが並ぶ。BandCamp内へのリンクはフッターにあるトップページへのリンクとその他業務上必要となるリンクのみ。アーティストがリスナーに浮気される心配なく、トラフィックを送り込めるページだといえる。
Jamendoが「アーティストと潜在的なファンを繋ぐ」サイトなら、Bandcampは「アーティストとファンを強く結びつける」サイトなのだろう。その意味では、両サイトが競合することはなく、使い方によってはいずれのサイトからも利益を得ることができる。
余談
ライセンスの自由さ、配信形態の自由さなど、Jamendoにはない多様な選択肢があることからも、Jamendo以上に門戸が広いというのも事実。その辺はアーティストに採用しやすい*7プラットフォームかなぁと思えるが、一方で、リスナー/プロシュマーとしては、Jamendoの方に分があるとは思う。Jamendoは全ての作品にCreative Commonsが適用されているため、友人との共有や、将来にわたっての流通においても安心できる。また、サイトはCreative Commonsの個々のライセンスを意識してもいるので、二次利用に際しても音楽が探しやすくなっている。
なので、たぶんまぁこれからもJamendoが続く限りは応援していきたいと思う。もちろん、他の魅力的な音楽プラットフォームもね。