Winny、二次放流者も著作権法違反容疑に問われる模様

兵庫県警の現役警察官が、ゼンリンの地図ソフトをWinnyからダウンロードし、その後もキャッシュを保持したままWinnyを利用し続けたことで、

誰もが自由にダウンロードできる状態にした

中日新聞:地図ソフトを勝手にネット公開 兵庫の警官書類送検へ:社会(CHUNICHI Web)

として、本日中に書類送検される模様。また、詳細はわからないものの、この警官とは別の男も同容疑で書類送検されるとのこと。
中日新聞では、

 警官らは、ファイル交換ソフトウィニー」を使えば不特定多数がソフトを閲覧したりダウンロードしたりできる状態にしていた。福岡県警は「悪質な著作権侵害行為」とみている。

中日新聞:地図ソフトを勝手にネット公開 兵庫の警官書類送検へ:社会(CHUNICHI Web)

と、ちょっと良くわからない日本語で報じている*1。「警官らは、ファイル交換ソフトウィニー」を使えば不特定多数がソフトを閲覧したりダウンロードしたりできる状態になることを知りつつ、「ウィニー」を使用していた。」ってことでしょうか。
これまでの経緯としては、今年1月、ゼンリンがWinnyネットワークで同社ソフトウェアがダウンロード可能状態にある、という被害届を提出したことで、福岡県警が捜査を開始。通信記録等を調べた結果、上記2名が関与していることが判明し、押収したPCを分析したところ、同容疑を裏付ける証拠が得られたとして、本日24日に書類送検することとなったようだ。NHKニュースでは

調べに対し、巡査は「Winnyを使ったパソコンから誰もが電子地図のソフトをダウンロードできることはなんとなく知っていた」と供述して、容疑を大筋で認めているということです。

NHKニュース:警察官 ウィニーで書類送検へ

と報じられており*2、この巡査が自らのダウンロードしたソフトウェアが他のユーザにもアップロードされていることを理解しつつ利用を続けていたことが、同容疑での書類送検に繋がったのではないかと思われる。
これまでWinnyを利用した著作権侵害のケースでは、そのターゲットとされてきたのはいわゆる一次放流者と呼ばれる「最初にコンテンツをアップロードするユーザ」であった。Winnyネットワーク上では、そのシステム上、単にキャッシュを中継するユーザであるのか、意図的にダウンロードしているユーザであるのか、ということが判別しにくく、また、ダウンロードしたコンテンツが自動的にアップロードされることがユーザの意図に基づいたものであるのか、ということも判断しにくいということもあり、意図を持って違法にコンテンツをアップロードしたと判断しうる一次放流者がターゲットとされているのでは?と見られてきた。
しかし、今回の件は、そこからもう一歩踏み込んで、二次放流者、つまりコンテンツをダウンロードしたことで自動的にアップロードに貢献しているユーザに対しても、それを理解している場合には著作権法違反に問える、と判断したのだろう。
とりあえず、現状ではそれほど報道されていないので、詳細はわからないところが多く、このエントリは多分に推測が含まれていることをご了承くださいませ。
余談だけど、今回の件は、「警官」、「京都府警ではなく福岡県警」、「逮捕ではなく書類送検」、「二次放流者の追及」とちょっと考えただけでも、いろいろなトピックが議論されそうだなぁと思える。個人的には「二次放流者の追及」以外にはあまり興味を持てないけど。

追記

事件の背景が少しずつだが明らかになっている。上記の警察官は平成20年1月に、2度にわたって自宅PCよりゼンリンのソフトウェアを違法に共有していたことが確認されており*3、その後家宅捜索を行った際に押収した私物のPCから、同ソフトウェアが保存されていることが確認されている。*4
ただこのWinnyネットワーク上での特定方法が謎で、asahi.comによると(太字は引用者)、

 ウィニーは、(中略)データを管理する特定のサーバーがなく、暗号化したデータを直接送受信するため、違法行為をしている利用者が特定されにくいとされるが、福岡県警は独自の検索法を開発して巡査を特定したという。

asahi.com:ウィニーで地図取得容疑 兵庫県警巡査を書類送検へ - 社会

いったいどんな技術なんでしょうか。
一方で、これまで難しいとされていた二次放流者の検挙に関しては、

巡査はデータをダウンロードすれば自動的に不特定多数が入手できる状態になるウィニーの特性を認識しており、福岡県警は著作権法違反(公衆送信権侵害)に当たると判断、同法違反容疑で巡査を同日、書類送検した。
 ウィニーに絡む事件では、データを故意にネット上に公開したケースなどが摘発されているが、ダウンロードの特性に着目して立件されるのは初めてという。
〜 中 略 〜
こうした(引用注:Winnyの)特性を知らない利用者が多く、私的目的の場合、違法性が問われる可能性も低いが、巡査は十分に認識しており悪質性が高いと判断した。

時事ドットコム:警官が地図データ不正入手=ウィニー使用−著作権法違反容疑で書類送検・福岡県警

やはり、Winnyの特性を理解しつつWinnyを使っていたこと、にあるようだ*5。ただ、前述のAsahi.comの記事では

調べに対し、事実関係を認め「意図的に著作権を侵害するつもりはなかった」という趣旨の供述をしているという。

asahi.com:ウィニーで地図取得容疑 兵庫県警巡査を書類送検へ - 社会

とあり、これまでの情報をあわせると、違法にアップロードする意図はなかったが、少なくとも違法にアップロードされるという認識はあった、ということになる。うーん、これは一歩どころではなく踏み込んだ感じだ。

仕組みを理解している人はWinnyを使ってはいけない?

それでも手当たり次第にWinnyユーザの家宅捜索を行うというわけにもいかないだろうなぁとは思える・・・。ただ、意図はないにしても、その構造を知っていたことで、責任を問われるということは、おそらく私はWinnyを使ってはいけない、ということなのだろうか。違法に共有されているファイルをダウンロードするわけではないが、少なくとも著作権侵害ファイルを中継しかねない、ということを理解している。それに関してはどのように判断されうるのだろうか・・・。
ACCSは今回の件を報じるとともに、Winnyの利用を停止するよう「強く」求めている。このような主張は、これが初めてというわけではないが前回、Winnyユーザが著作権侵害で逮捕された今年1月の主張とはいささか異なる主張になっているのが興味深い。
今回の報告でACCSはこう述べている。

Winnyネットワークに他人の著作物を無断でアップロード(送信・送信可能化)することは、著作権侵害行為に該当することは言うまでもありません。

ACCS/著作権侵害事件

これは一次放流者に対するこれまでの対処に対応する。

また、Winnyは、ダウンロード(受信)されたファイルをそのままアップロードする機能を持つことから、Winnyを通じて他人の著作物をダウンロードした利用者は、即時にアップロード行為者になります。

これは今回の二次放流者に対する今回の検挙に対応する。

更に、Winnyには、ファイルの断片を勝手に中継(送受信)させられる機能があるために、そのネットワークに参加するだけでも、違法な送信行為に「加担」することにもなります。

と、この辺は中継に関してはACCSもお茶を濁している感がある。ただ、これまでも「加担」という言葉でお茶を濁してきたのだが、今回特に変わったのは、ダウンロード行為が即時にアップロード行為になる、と断言したこと。これまでは、ダウンロードと中継とを切り分けて強く論ずることはなかったのだが(どちらもネットワークに参加することで、違法な送信行為に「加担」することになる、という表現だった)、今回の報告ではそれらを明確に区別している。
もちろんACCSとしては、現状ではダウンロード行為にアップロード含まれることをもって著作権侵害に責任を持つという判断、解釈を行わない*6のだろうが、今回の検挙を受けて、その事実を背景にダウンロード行為がアップロード行為に繋がるということを持って著作権侵害に問える(かもしれない)んだぞ、という暗黙のメッセージを送りたいのだと思われる。
さて、ACCS専務理事・事務局長の久保田氏のブログにどんなことが書き込まれるのか、に期待したい*7

*1:私もたまにこうした記述をしてしまいますが。

*2:Winny書類送検、という表現はおかしいと思うけどね。Winnyを利用した著作権侵害で、というならわかるが。

*3:ACCS/著作権侵害事件

*4:asahi.com:ウィニーで地図取得容疑 兵庫県警巡査を書類送検へ - 社会

*5:果たして、その特性を知らないユーザが多いかどうかはわからないが・・・。

*6:少なくとも判決が出るまでは

*7:当ブログは久保田さんを応援してます。皮肉でもなんでもなくて、本当にブログの更新を楽しみにしてたりする。だから・・・月に1度は更新してほしいな・・・。