JASRAC、ビデオ共有サイトTVブレイクを提訴

TVブレイクと聞いて、ギミア・ぶれいくとか日本ブレイク工業何かを思い出してしまった私は少数派なんでしょうか。実のところ、このサイト、全く知らなかったですよ。で、今日も酔ってますよ。

ビデオ共有サイトがJSARACに訴えられる

米国でもYouTubeViacomに訴えられてドンパチやってますが*1、日本だとどういう扱いになるのだろう?というのは疑問だった。米国ではビデオ共有サイトは、DMCAに則って削除通知(Cease & Desist notice)があった場合には、迅速に削除に応じる、という建前があって、それを実際に行っていればたとえユーザが違法コンテンツをアップロードしていてもサービスプロバイダとしては免責される、とYouTubeをはじめとしたビデオ共有サイトは主張している。
もちろん、こうした事情はDMCAのある米国であればこそ、可能な主張であるのだけれども*2、日本ではどうなんでしょうね。プロバイダー責任制限法あたりがこうした事例に関わってくるのかな。
とりあえず、今回のJASRAC vs. TVブレイクについて見ていくことにしよう。

JASRACの主張

損害額とかその算出方法はともかくとして、JASRACがTVブレイクの何を悪かったのかとしているのかをみてみよう。

JASRACは、昨年6月以降同社に対して、本サイト上のJASRACの管理著作物を含む権利侵害動画の投稿を防止するために具体的な対策を講じ、権利侵害動画の配信を停止するよう要請しました。しかし、同社は、本サイト上で発生する著作権侵害について責任を負わないと主張して、JASRACの要請を拒否し、何らの対策もとらずに現在も事業を継続しています。

JASRAC:プレスリリース

この辺の書き方があいまいなので、少し混乱してしまうのだが、とりあえず私としてはJASRAC側は2点、要請を行っている、と考えられる。

  1. 著作権侵害動画の投稿を防止せよ
  2. 著作権侵害動画を削除せよ

少なくとも、いかにDMCAのある米国であっても、2点目に応じなければアウアウとなるわけだが、TVブレイクはそれにすら応じていなかったのだろうか。
このプレスリリースには、JASRACのビデオ共有サイトに対するスタンスも書かれていて、

日本における動画投稿(共有)サイトは、2006年初めから様々な事業者により立ち上げられていますが、同社以外の動画投稿(共有)サイト事業者の多くは、適法なビジネスモデルを目指して自主的に権利侵害動画を削除し、または権利者の許諾を得て適法に配信するなど、著作権侵害の発生防止措置を講じており、権利者との良好な関係を築くよう努力しています。

この辺は、eyeVioとかニコニコ動画、Yahoo!ビデオキャストのことだろう。これらのサイトは、著作権侵害動画の自主的な削除と、そうした動画の投稿予防措置を講じているのだとしている。しかし、今回訴えられたTVブレイクに対しては、

このような対応策を一切講ずることなく、意図的に著作権侵害を放置し、容認する無責任な運営を継続しています。

そのどちらも行っていない、と批判する。
個人的には、いつも海外の話題ばかり見ているので、違法にアップロードされた動画を削除しない、というのであれば問題であるが、予防的措置に関しては、以前のGoogleのようにやりますよぅやりますよぅといって、しばらくはノラクラとかわせたんじゃないのかしらと思えるのだが、それまでのやり取りもわからないうちは、何とも言い難いところではある。

TVブレイクの主張

ニュースやJASRACのプレスリリースを読んだ時点では、TVブレイク側が削除要請を拒否し続けたんだなぁと思ったんだけど、TVブレイクのプレスリリース掲示板を読む限りでは、TVブレイク側はその点に関しては否定し、プロバイダー制限責任法に沿って運営をしていると主張している。

私共は、プロバイダー制限責任法に沿って運営しており、未だかつてJASRACのプレスリリースにあるような「削除要請を拒否」した事は一度たりともございません。
何度かやりとりをして来て、弊社と致しましては平和的な解決を望みましたが、 抑圧的に突然、「提訴」という決断をされた事は大変残念です。

JASRAC提訴について:TVbreak

と削除要請を拒否したことはない、と断言している。また同サイト掲示板上でも、社長さんが『JASRAC提訴キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!!』というタイトルで、書き込みをしている。

一部の権力者によってルール作りがされるのであれば、民主的メディアであるインターネットは権力者によるルールの下でしか皆、自由な情報発信や共有が出来なくなります。
今までも、音楽好きなインディーズの方がライブハウスで歌っている映像の削除要請もございました。
頑張っているインディーズの方でしたので、非常に残念に思った事を昨日の事のように思い出します。

TVbreak

どういう経緯でアップロードされたものかはわからないが、おそらくはそのインディーの人*3JASRAC著作権を信託していたのだろう。もしそうであれば、JASRACとしてはインディーズだから別にいいだろうなどといえるわけもなく、削除を要請するのは当然であると思える。もちろん、これがアーティストが自らアップロードしたものであるのだとすれば、JASRACが削除したことに対してではなく、JASRACの融通の利かなさか、アーティスト*4の権利意識の低さか、いずれかが問題の根本であるとしか言いようがないかも。(追記:自分自身の曲を演奏していたのに削除要請が来たというだけではなくて、誰かのコピーをしていたから削除要請が来た、ということもあり得ますね。)
ただ、実際に削除したのか、ということは明確には述べられていないので、TVブレイク側が著作権侵害動画を削除したんだ、とは明確には言えないものの、TVブレイク側の主張としては「削除要請を拒否したことはない」ということで。
プロバイダー制限責任法に沿った運営をしているのであれば、少なくとも削除要請があり次第、そのケースが要件*5を満たす場合に、当該動画を削除することでサービスプロバイダとしては免責されるのだろう。が、要件を満たしているか否かは、それぞれの当事者の解釈によるものであり、ここに相違があった場合には裁判で解決する、ということになるのかしら?

特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律

(損害賠償責任の制限)
第三条  特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
一  当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二  当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。
2  特定電気通信役務提供者は、特定電気通信による情報の送信を防止する措置を講じた場合において、当該措置により送信を防止された情報の発信者に生じた損害については、当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するために必要な限度において行われたものである場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、賠償の責めに任じない。
一  当該特定電気通信役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったとき。
二  特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者から、当該権利を侵害したとする情報(以下「侵害情報」という。)、侵害されたとする権利及び権利が侵害されたとする理由(以下この号において「侵害情報等」という。)を示して当該特定電気通信役務提供者に対し侵害情報の送信を防止する措置(以下この号において「送信防止措置」という。)を講ずるよう申出があった場合に、当該特定電気通信役務提供者が、当該侵害情報の発信者に対し当該侵害情報等を示して当該送信防止措置を講ずることに同意するかどうかを照会した場合において、当該発信者が当該照会を受けた日から七日を経過しても当該発信者から当該送信防止措置を講ずることに同意しない旨の申出がなかったとき。

とりあえず、著作権侵害動画の投稿の防止という予防的措置を講じ得たにも関わらず、あえてそうした措置を取らなかった、そして、削除要請に対して、適切な対処を行わなかった、という点でドンパチやるのかしら。TVブレイクのリリースでは予防的措置については言及されていないけれど、サービスプロバイダにもそうした措置を講じる責任があるのかどうかという点も興味深い。eyeVioは目視で点検しているみたいだし、YouTubeは再投稿を防止するフィルタリングや画像指紋技術を用いたフィルタリングを用いていたはず。ニコ動は…何かあったっけ?あったと思ったけど忘れた。まぁ、そういった措置がサービスプロバイダの責任とされるのかしらね。
TVブレイクの掲示板での社長さんの発言にもあるように

結果がどうなるかは神のみぞ知りますが、私共としては、今後のインターネットと著作権を考える上で非常に重要な判例になると考えおります。
(中略)
何はともあれ、動画共有サイトとしてはJASRACからの提訴は国内初であり、国内初でサービスを始めた当社と致しましては、当然の事だと考えております。
(中略)
結果はどうなるか分かりませんが、弊社は変わらぬポリシーで争う事になります。ネットの将来を占う貴重な判例になりますので、私自身、強い決意をもって向かいます。

確かに、サービスプロバイダにとっては大きな影響を及ぼす判決にはなるかも。

余談

TVブレイクを見てみたんだけど、明らかに著作権侵害コンテンツって感じなのが多いね。だから悪だ!TVブレイクの主張など認めない!というつもりはないけど。

*1:最近だとまたイタリアで訴えられてましたね

*2:もちろん、DMCAがあるからといってYouTubeをはじめとしたビデオ共有サイトの主張が正しいというわけではなくて、少なくともGoogle vs. Viacomのように裁判に持ち込まれてしまった以上、法廷で白黒つけることになっているわけだけれども。

*3:またはその著作権を譲渡された者

*4:またはマネジメント

*5:ガイドラインなどに即して