「ダウンロード違法化」の効果と減少を続けるP2Pファイル共有ユーザ

前回のエントリにて取り上げたNHKの報道について、もう1つ気になることがあった。

調査したセキュリティ会社の「ネットエージェント」では、「警察などによる児童ポルノの取締りは強化されているが、ファイル交換ソフトの利用は減る様子を見せず、さらなる対策が必要だ」と話しています。

児童ポルノ交換 PC2万台超 NHKニュース

うーん、この件の文脈、事情を知っていれば言わんとすることは理解できるのだが、何も知らなければ「ファイル交換ソフトの利用は減っていないのか」ととられかねない文面だなぁと。

少なくとも、ネットエージェントの主張は、「ファイル交換ソフトの利用は減っていない」ではなく、Shareを利用した児ポ共有者の一斉摘発があったけれども、「Shareを利用した児童ポルノ共有者は減少しておらず、一斉摘発の影響ほとんど影響がなかった」ということ。ファイル共有ソフトの利用が減少していない、というわけではないだろう。もう1点突っ込むと、ネットエージェントは「ファイル共有ソフト」とは言っても、「ファイル交換ソフト」とは言わないだろうね。

ここまでは話の枕、ここから本題。WinnyやShareを利用したP2Pファイル共有ソフトの利用は、ここ数年で大きく減少している。ネットエージェントが公表しているデータにもとづいても、ユーザ数が確実に減少していることがわかる。その辺りについてちょこっと見てみることにしよう。

Winny、Shareノード数の推移(2006年〜)

ネットエージェントでは、Winnyノード数推移の分析Shareノード数推移の分析ページにて、、年末年始、ゴールデンウィーク、お盆などの一定期間や、摘発などの動きがあった前後の期間の各ファイル共有ソフトのノード数の推移を公表している。ありがたいことに、グラフだけではなく、数値も掲載してくれているので、そのデータを利用して、各期間の平均ノード数を算出、それをグラフにしてみることにした。

公開されている全てのデータをを入れると見にくくなってしまったので、各年度ゴールデンウィーク*1と年末年始のデータを使用し、それぞれ平均を算出した。また、2009-2010年の年末年始は、期間内に改正著作権法の施行(ダウンロード違法化)を挟んでおり、ユーザの行動に影響を及ぼしうるものを考えられるため、この期間に限って、年末と年始のデータを分割して平均を算出した。

Winnyは2007年のゴールデンウィーク辺りを境に、減少が続いている。なお2009年のお盆に急増しているように見えるが、これはWinnyネットワークに対するポイゾニングの影響ではないかと思われる。また、2010年年始についても、不適切な設計のクローラーによるノード数の増加が観測されている。これについては後述。

Shareは2009年初頭をピークに、ノード数の減少が続いており、2010年年始、つまりダウンロード違法化により、大幅に減少している。

Winny、Share、PerfectDarkノード数の推移(2009年度)

ネットエージェントでは、2009年度四半期ごとにWinny、Share、PerfectDarkの月間平均ノード数、最大ノード数を公表してもいる。この月間平均ノード数のデータを用いて、2009年4月から2010年3月までの期間の、Winny、Share、PerfectDarkのノード数の推移を見てみることにしよう。

昨年度は、違法P2Pファイル共有に対する摘発強化されてきたが、その中でも最もインパクトのあったものといえば、昨年11月のShareユーザ一斉摘発だろう。また、今年1月1日より、ダウンロード違法化が施行され、それもユーザの行動に影響を及ぼしたとも考えられる。各時期について、わかりやすいようにグラフ中に表記した。

まず目を引くのが、Winny、Shareに見られる減少傾向。特にShareは元々微減傾向にあった者の、11月末のユーザ一斉摘発でガクンとノード数を減らし、ダウンロード違法化の施行に伴い、さらに急速にノード数を減らしている。

Winnyについては、2009年7月、8月、10月の急増が目につく。ネットエージェントの報告書には、「※2009年10月までWinnyネットワークに対し、ランダムなIPアドレス、ポート番号によるキー情報の大規模な拡散行為が行われたため、ノード数が実際よりも多く集計されています。」とあり、不適切な設計のクローラーが稼働していた、または大規模なポイゾニングが行われたために、実際のユーザ数以上のノードが観測されたと思われる。

また、これと同様の問題は、今年1月にも発生した。ネットエージェントのノード数報告により「ダウンロード違法化、Winnyノード数に影響なし Shareは減少」「ダウンロード違法化後、Shareノード数は減少、Winnyは増加傾向」などと報じられたものの、セキュリティ研究者の高木浩光氏は、不適切な設計のクローラーによる架空ノードが含まれた数値であり自身のクローラーではWinnyノードの約2割減少を観測していると指摘した。上記のグラフ「Winny, Share平均ノード数の推移(2006年〜)」にて、「2009年 お盆」「2010年 年始」の期間にWinnyノード数が増加しているように見えたのは、そのためであった。ネットエージェントも、第四四半期報告書(2010年1月〜3月分)では、「2010年1月については、特定機関からのキー情報が大量にWinnyネットワーク上に拡散されていたため、その分のノード数を除き集計を行っています。」との注釈を入れ、架空ノードを集計から除外したようだ。

これらの事情を考慮にいれると、2009年中も微減傾向にあったWinnyノード数は、ダウンロード違法化によりさらに減少した、と言えるだろう。

一方、PerfectDarkは2009年中に微増を続け、ダウンロード違法化の施行時にやや減少したものの2月以降は元のレベルに戻っていることがわかる。

ちょっと乱暴ではあるが、Winny、Share、PerfectDarkの3つのファイル共有ソフトを合わせたノード数の推移を以下に。

全体としては、やはり減少傾向が見て取れる。

2006年以降の推移、2009年度の推移からは、これまでも徐々に減少傾向にあったP2Pファイル共有の利用が、ダウンロード違法化によって拍車がかかった、とみることができるだろう。

2010年4月以降は?

今年の3月までの推移はわかったが、それ以降はどうなっているのだろうか。ネットエージェントは今年4月以降のデータを公表していないので、明確にはわからないのだが、Shareについては、「児童ポルノコレクター」報告の中で、9月末から10月初旬のデータを元に「全体のShareの利用者数が約10万人規模」であるとしており、少なくともShareについては、今年3月くらいから変動なし、または微減傾向にあると言えるだろう。

なぜ減少しているのか?

まず2010年元日からの減少は、明らかにダウンロード違法化が影響だと考えられる。相当なインパクトがあったんだね。ただ、この手の規制は実効性がなければ元の木阿弥になってしまいそうなもの。違法ダウンローダーへの民事的執行は全くなされていないが、違法アップローダーへの摘発が強化されたことで、その抑制効果を維持しているのではないかとも考えられる。ある意味、合わせ技1本みたいな。

とはいえ、違法ファイル共有を止めた者もいれば、別のP2Pファイル共有ソフトにシフトした者もいるだろう。その辺りは、PerfectDarkユーザの微増に見て取れるが、Winny、Shareユーザの現象を説明できそうな数字でもない。ACCSの調査を見る限りでは、BitTorrentもユーザ数を増やしていそうだが、今年の調査ではどのような結果がみられるだろうか。

また、こうしたシフトはP2Pファイル共有間に限らず、たとえばビデオ共有サイトやウェブストレージによるファイル共有へとシフトしていったりというケースも少なくなさそうだ。

*1:2009年度はGW調査が公表されていないため、代わりにお盆のデータを使用