若者はコンテンツにお金を払わない?:CDと着うたフルから考えてみる

よく、最近の若者はネットやケータイでお金を使わずに○○(コンテンツ)を消費する、とか、○○に対価を支払おうという気がそもそも育っていない、とか言われる。でも、本当にそうなんだろうかと疑問に思ったりもする。

その辺について、先日公表された日本レコード協会の2010年度版音楽メディア実態調査から、世代別のCDや着うたフルの利用状況を見つつ、考えてみたい。

市場全体に占める各世代の割合を見てみると、CDアルバム・シングルやインターネット配信で30代〜40代の割合が高い。ただ、着うたは中学生〜20代の占める割合が最も高く、およそ半数。また、CDアルバム・シングルにおいても、中学生〜20代は比較的大きな割合を占めている。

中学生〜20代の層は、お金をそれほど持ってはおらず、またクレジットカード等もなく支払い手段も限定されている人たちが多数含まれている。また、人口構成比をみても、この世代の人口が最も少ない。


Source: 「総務省統計局 人口推計」より抜粋し加工

こうした背景を加味して考えると、若い世代が他の世代に比べて、コンテンツにお金を支払わない傾向にあるとは思いがたい。その辺を見てみるために、世代ごとの着うたフル、CDの購入傾向を見てみることにする。まずは若年層に人気があると思われる着うたフルから。

世代別着うたフルの購入率、購入曲数

世代別着うたフル購入率を見てみると、男性に比べて女性の割合が高く、男女ともに中学生〜20代の若年層で購入率が高い。

続いて着うたフル平均購入曲数。こちらは購入経験ありの回答者の平均になる。中学生男子を除き、男女とも若い世代で購入数が多い。60代男性がものすごい値をたたき出しているが、サンプル数の少なさ故かな。

とりあえず、着うたフルは、若者に人気があるというイメージ通り、若年層で購入率も高く、購入曲数も多かった。また女性が多く利用するという傾向も見て取れる。

世代別CD購入率、購入枚数

世代別CD購入率を見ると、なんだかんだで中学生〜20代の購入率が他の世代に比べて高いことがわかる。

世代別CD平均購入枚数を見ると、女性に比べ男性で高く、着うたフルの傾向とは逆になっている。男性では高校生、30代、40代、50代でやや多い傾向があるように感じるが、中学生男子を除き全体的には大きな開きはないとも思える。女性では、中学生〜大学・専門学校生、20代〜40代、50代〜60代の順に綺麗にわかれている。

CDの購入率と平均購入枚数とをあわせて考えると、男性では、30代〜40代では購入者は若年層に比べると少ないが、購入枚数が多く、人口構成比を加味すると市場全体に占める割合が大きい、ということになるのかな。一方の中学生〜20代では、購入者は他の世代に比べると多いが、購入枚数がやや少なく、人口も少ないので市場全体に占める割合が圧縮される、と。

また女性では、購入率、平均購入枚数ともに若い世代で高く、年齢が上がるにつれて、両方とも小さくなっていく。

ということで、世代/性別のCD/着うたフル購入率、平均購入数を見る限りでは、若年層が他の世代に比べてお金を支払わないという傾向は見られないと思うよ。むしろ、着うたフルも購入する世代で、CDも買う世代、他の層に比べてお金を出してるんじゃないかなという印象を持ったくらい。

私自身も、若い人たちはCDを購入しなくなってきているのかなと思っていたこともあったけど、主に若い人に人気のアーティストのCDが売れているのを見たりすると、やっぱりCDも購入しているんじゃないかと思い直したりもする。

たとえば、西野カナ

彼女はもはや着うたの女王と言えるほどに、着うた市場では人気のアーティストなのだが、意外なことにオリコンシングルCDチャートで、週間1位になったことはない。

しかし、昨年6月にリリースされたアルバムは初週で29.0万枚を売り上げ、週間、月間ともに1位を獲得、年間アルバムランキングでも第3位につけた。年間の売り上げ枚数は64.5万枚で、ミスチルの59.7万枚、安室奈美恵の57.4万枚*1をしのいだ。ベストアルバムを除くオリジナルアルバムでは、嵐に次ぐ第2位。

あくまでも直接的な証拠となるものではないが、着うたで人気を博す彼女のCDアルバムのヒットを、着うた世代が支えたとも考えられる。

個人的には、着うたでの人気がCDの売上に繋がるのかと疑問に思うところもあったが、少なくとも西野カナくらいになるとうまいこと繋がっているのだろうなと。ただこのアルバムの場合、シングル曲盛りだくさんというベスト盤的側面も相まってなのだろうけど。

若者だってお金出してます

いろいろ見てみたけど、世代別に見ても若年層が他の世代に比べてお金を出していないということはなかった。もちろん、着うたフルとCDという限られた範囲で見た結果でしかないのだけれど、他の分野でもそうなんじゃないかなと思う。着うたの隆盛を見るに、魅力があって、環境や状況が整っていて、簡単に支払えれば、コンテンツにペイするんだろうなぁと思った。

おまけ:市場規模の比較

最後に、着うた世代が支える携帯音楽配信市場がどれくらい成長しているのか、というお話でも。ちょっと古いデータになるのだけれども、デジタルコンテンツ協会の公表した報告書によると、日本の2008年の音楽コンテンツ市場規模は全体で1兆6176億円に上る。その内訳と推移をグラフにしてみた。

この報告書では、音楽市場は音楽ソフト売上*2、インターネット配信*3、携帯電話配信*4、カラオケ売上*5、コンサート入場料収入の5つにカテゴライズされている。カラオケ売上がもっとも大きな部分を占めているが、室料、飲食料、サービス料等さまざまな金額が混じっており、なかなか解釈しがたいので、とりあえず放置の方向で。

日本では携帯音楽配信が劇的に成長したのはわかっていたが、こんなにでかくなっているとは思わなかった。推移を見ると、CD等パッケージメディアの音楽ソフトが減少を続けているものの*6、インターネット配信、携帯電話配信、コンサート入場料収入は成長している。

この調査研究報告書にも記載されているけれど、RIAJ公表の会員社データでは2008年の携帯音楽配信の規模はおよそ800億円。調査データとはだいぶ違うけど、残る1,000億円ってどの辺なんだろう。

*1:安室奈美恵のアルバムリリース日は2009年12月18日だが、2010年間ランキングの集計期間は2009年12月14日〜なので、漏れはないはず。

*2:CDセル、アナログディスク・カセットテープ・その他、DVDセル、テープその他、CDレンタル

*3:音楽配信MIDIDTMデータ配信

*4:着メロ、着うた、着うたフル、リングバックトーン

*5:酒場市場(クラブ・スナック・パブ・居酒屋などで業務用カラオケを設置する店舗)、カラオケボックス市場(飲食および室料、その他サービスを含む)、その他の業務用カラオケ市場(旅館・ホテルでのへ貸出経費や、食堂・結婚式場・観光バス・その他の経費)

*6:なお、除外したカラオケ売上も減少を続けている。この傾向は、CDの売上が減少を始めた時期とだいたい一致したと記憶している。